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23-1 追求〜失踪
明らかに晃の仕事上のミスが続いていた。
それは元よりそそっかしく、マイペースな彼にはよくあることでもあったが、発注ミスで大幅な在庫を抱える羽目になった先方がとうとう怒り出してしまったのである。
取引先まで直接出向いた鷲尾と晃は、ドラッグストアの店長に目一杯頭を下げて謝罪した。
「このたびは誠に申し訳ございません」以外、余計な言葉は口にできないほど、ひりついた空気が流れていた。
再三の謝罪でようやく店長が根負けする頃には、彼は密やかに鷲尾に不満を口にした。
「……すまないね。僕もあまり言いたくなかったのだが……篠宮のお坊っちゃまがあまりにも……ねぇ」
ここの店長は元より晃をあまり良く思っていない。晃をちらりと見やり、最後は小声になる。
「鷲尾くん……君のことは、とても良くやってくれているし、信頼できる人間だと思っているよ。ただ、篠宮くんと組むのはやめた方が賢明だと思うんだ。正直……君の才能を潰しかねないよ、彼は」
「そうですか……でも」
「聞いたよ、篠宮くんに研修を受けたんだろう? そんな恩くらい、大したことではないのに」
「それでも友人なんです。彼がまたヘマをするようであれば、その時は……」
辞める、とは一言も言っていないが、店長は途端に困り顔になった。
晃には退いてほしいが、鷲尾も責任を負うのは損失だ。店長が今、敏腕営業マンとして欲しいのは鷲尾だ。
こうして、晃の、ひいては篠宮の顔に泥を塗っている今は笑いが止まらない。
「……まずは課長に相談してみます」
「あ、ああ……」
鷲尾が店長と話している間、晃は心底悪いことをしてしまったと、申し訳なさそうに佇んでいた。
だが、それがかえって追い詰めすぎたのだろうか……。
大きくため息をついて携帯を取り出すと、どこかに電話をし始めた。その内容を、店長を横目に耳を澄ます。
「……あ。パパ……僕だけど……。あの、あのね、大事な話があるんだ。今晩、空けられないかな。……どうしても会って話したい重要な件なんだ」
ああ、これは。普段のように父に泣きつくのではない、根本から事態を打開しようとしている。
つまり、鷲尾の事件の犯人が本当に父であるのか追求する決心がついたということだ。
チクりに仕事のミス。当初にも言ってはいたが、これはもう看過できない。
鷲尾は最後にまた電話を切った晃を呼んで深々と謝り、その場を離れた。
今はまだ、彼のしたことに対する責任を問う時ではない。
それに、事件のことは何も言わずとも、社長はあくまでもしらばっくれるだろう。彼もクラブの干渉を知っている以上、命は惜しい。
でも晃は、クラブのことは何も知らない。父の裏の顔も、鷲尾の心情も、いいや、知り得るのは容易であるのに、核心に迫ることが怖いのだ。
彼だけは許さない。
それには、彼にも相応しき場所へ誘ってやる必要がある。
鷲尾を、篠宮親子を、過去数多の人間全てを狂わせた、あの地下クラブへ。
篠宮が一人で住むタワーマンションの近くで、親子の密会が終わるまで鷲尾は暇を潰していた。
夜も更けて二時間ほど。日付けが変わるかというタイミングで、ようやくエントランスから晃が出てくる。
その表情は浮かない……というよりも、それ以上。納得のいかない様子で背を丸め、大きくため息をつく。
この様子では、やはりどれだけ晃が警告しても、篠宮は何も口を割らなかったということになる。それも当然だが。
そんな晃に近付いていく。
晃は鷲尾を見るなり、大袈裟に身を震わせた。まさかこんなところで遭遇するとは想像もしていなかったのだ。
「れっ……怜仁くん。どうしたの、こんなところで……?」
「ここ、社長のご自宅でしょう? あなたが教えてくれたこともあるのだから、それくらいは知ってますよ。それよりも、命令違反を正しに来ました」
そう言って、鷲尾は口元だけを緩ませた。
目は笑っていない。それはそれは異形のもののように晃の視界に映った。
「社長に俺の事件を聞きましたね」
「そ……そんなことないってば。親子だよ? ただ会うだけの日もあるじゃないか……」
「……俺に嘘まで付くようになったかテメェは」
思わず低い声が漏れ出る。
馬鹿な晃だが、いくらなんでもここまで白々しい嘘を付かれるとは、鷲尾の怒りを何倍にも刺激した。
鷲尾は勢いよく晃の手首を掴み上げる。
「来い」
「ちょっ……痛いよ! どこ行くの!?」
「黙ってついて来い」
万一にでも篠宮に見られるのはまずい。もがく晃などお構いなしに、早足でその場を離れる。
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