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25-1 ※鷲尾×晃、水責め

 百貨店に赴くと、真っ先に一人であることを指摘された。 「あら? 今日は篠宮さんは一緒じゃないの?」 「ええ。体調が悪いようでして。少しの間、私一人に任されることになりました」 「そうなの……」  バイヤーの女性は、なんとも残念そうに肩を竦める。 「いえ、気を悪くしたらごめんなさいね。鷲尾さんが優秀なのはここ数ヶ月で知ったつもりよ。でも篠宮さんって、確かに仕事は褒められたものじゃないけど、私達をいつも平等に労ってくれて。独身から子持ちのスタッフにまで、プライベートな相談も聞いてあげたりなんかして。なんだか嫌いになれない……むしろ可愛いわねって評判だったのよ。きっと奥様もそういうところを好きになったのねって、皆で話していたの」  そう言う彼女は寂しそうな表情だ。どことなく、他のBAもそんな雰囲気を醸し出している。 「あんな仕事ぶりの人間のどこが?」  我ながらあまりにも迂闊な失言であった。 「……失礼。普段よりご迷惑をかけているのではないかと大変心苦しく思っておりましたので」  頭も要領も悪くて、仕事も父親の存在が居なければろくにありつけないだろう。時に鬱陶しいとさえ思うのに。  それなのに、どうして愛される? 人を笑顔にできる?  意味がわからない。  そんなのは非常識だ。  非常識な人間は嫌われて然るべきだ。  俺のように強く賢くそして美しい完璧な男が好かれて、思いのままに生き抜ける社会というものが現代でも当たり前ではなかったのか?  弱者ふぜいが強者より優れている部分など、あっていいはずがない。  晃を良く思う人間達の目は皆曇っている。または、あいつと同じ生まれつきの馬鹿共だ。  ふう、と一つ息をついた。まったく俺らしくもない。  わかっている。俺は仕事ができるが、それだけ。  美鈴などのように計画がなければ、女の、他人の気持ちに共感してやるなんて反吐が出る。  その点、晃は営業成績以上に、他人の心を惹き付けるものがある。「甘さ」という名の実直さ、そして思いやりだ。  だが、晃のことを気に入っている者は少なくていい。  ここの店舗は売り上げも伸びているのでまだ良いけれど、もっと新規店舗を開拓して、こちらから足切りを提案してやってもいいかもしれない。今から焦る様子が目に見える。 ◆  私生活に割く時間が増えてきていた鷲尾は、今夜もクラブに寄った。  美波、真鍋、そして篠宮といった障害がほぼ取り除けた今となっては、鷲尾が晃を拷問する理由はひたすらに単純なもの。  ただのストレス発散。  今日は二人で風呂場に行き、晃の髪を引っ掴んで、並々と張られた浴槽に沈めることを繰り返していた。 「あの厚化粧のクソババアどもは、この俺よりっ、女好きの間抜けなお前の方がお気に入りなんだってよ。良かったなぁ!」 「ぶごおおぉぉっ!!」  窒息寸前まで湯船に頭全体を浸す。手足は拘束されており、晃は一人では本当に溺れてしまうかもしれない。  肢体を揺すり、浮いてくる泡が微量になってきたところで、また水面から上げてやる。 「ぶはっ……はぁ……ハァーッ……げほおおおぉっ!!」  鼻にも水が入って、晃はとても苦しそうに肩で息をしている。  しばらくぶりの呼吸はまさに天の助けのようだ。ただし、それを制御するのは鷲尾。  晃が完全に落ち着く前に、また水の中へ。たまに水がもろに体内に入っては、その都度泳ぎの下手な奴みたいに吐いている。  だが、別に気にしない。殺す気はないから、最初から殺さないようにやっている。  水責めさえも慣れてくるものか、猛烈に抵抗していたのが、だんだん諦めムードになってくる。  強く水面に顔を押し付けても、我慢の色が見えない。いっそのことこのまま死ねたら……そんな風に、不気味なほど大人しくもなる。  それでは、こちらとしてはやる価値はなくなる。ぶっきらぼうに晃を風呂場のタイルに引き倒した。  弱々しく鷲尾を見上げる晃は、恐怖を感じているというより、本当に……意識がはっきりしないようだった。  そんな晃の頬をバシバシっと往復ビンタすると、また瞳に光が戻った。  このクラブに堕ちた以上、晃はただの奴隷だ。もう敬称をつけるのも止めた。 「晃。これから俺が言うのと同じことを言ってごらん」  そう言って耳打ちする。  とてもじゃないが言いたくなさそうに無言を貫く晃だったが、再び髪を鷲掴みにすると、晃は慌てて「言います、やめてください」と首を縦に振った。 「うっ、うぅ……僕は……殺人鬼の息子です……奥さんも、浮気して捨てました……チンポに屈したみっともない性奴隷です……っ。怜仁くんの方が何もかも優秀です……僕の最高のご主人様です……あなたが居ないともう生きていけません……ひっく……」 「俺が居ないと……そう、俺が特別、だよなぁ、晃?」  晃は涙を流しながら頷いた。言わされているのが半分だが、半分は事実だろう。  この残虐極まりないクラブで信頼できるのは鷲尾だけ。どれだけ酷いことをされようが、相手が鷲尾ならば少しは安堵さえしてしまう。  鷲尾は自己愛たっぷりの笑みを見せた。  それでいい。自分こそこのクラブに選ばれた人間なのだから当たり前だ。 「怜仁くん……一つだけ、聞かせて……パパは……美鈴は……僕の家族は、無事……?」 「ああ、無事だよ。美鈴はお前に心底失望しているようだけど」 「……そっ、か……そうだよね……」  全ては彼女を守る為であったが、正式な別れも告げられなかった。  あの離婚届は、鷲尾の見ている前で脅迫されて書かされたものだ。  もちろんそう簡単にできる判断ではなかったが、また芋虫でも食わせてやろうかと脅したところ、彼は泣きながらサインした。  あとはそれと浮気の証拠を持って晃宅に侵入し、美鈴と行き違いになるよう置いて来た。  決して晃の意志ではない。でも、そんなことを証明できる人間はもういない。

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