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26-3 ※鷲尾×美波、薬物、電気椅子、グロ

「さて……それでは皆様、お待たせ致しました。これより死刑執行のお時間です」  おおっと会員達がどよめいた。  美波が座っているのはただの椅子ではない。現在ではほとんど使われていない非人道的な死刑執行器具──電気椅子だ。 「し……けい……? しけいって、なに……?」 「やれば楽になれるそれはそれは素晴らしいことですよ」 「そ、そうなんだ……今でもこーんなに楽しいのに、もっと楽に……嬉しい……鷲尾さん、ありがとうっ! あははははははははははははははっ!!」  しかしその言葉の意味さえ、今の美波には理解できない。  ここまでの所業を行った鷲尾に感謝すらして、高笑いをこぼした。  強い電圧のブレーカーを容赦なく上げる。  彼には死ぬまでに少々時間がかかる殺し方を選んだ。どれだけ麻薬をやっていたとて感電地獄の苦痛は避けられない。 「あひゃひゃひゃひゃうひぃいっひひひっひぃいいい!! ……ぁ、ガァアアアアアッ!?」  狂人のごとく笑い続けていた美波が、耳をつんざくような鋭い悲鳴を上げた。突如として高圧電流が全身を襲ったのだ。 「ぉ、ァッ……アアアアア……あぎぃうぎいぃぃぃぃぃ……」  声にならない声を上げながら、かろうじて拘束されていない手足の先をビクビクと激しく跳ねさせ、ゆっくりと肌や髪や肉が焦げて溶け、鼻が曲がるような臭いが漂ってくる。  それでも美波は死という運命から絶対に逃げることはできない。  普通は目隠しをするが、あえてしなかった為、眼球も飛び出して溶け、さらに鼻や耳からも出血して赤黒い涙を流した。  当然、そうまですると息も出来なくなってくる。  無言でただ身を痙攣させる姿は不気味そのもので、まるで悪霊にでも取り憑かれたみたいだ。  やがて、美波が泡を吹いて動かなくなった。  これは会員達への見世物だ。だから過激なほどにやった。  かなりの部位が焼けた状態だったので、人肉の焼け焦げたきつい臭いが充満する。  膀胱や括約筋が緩み、糞尿も垂れ流し放題。脳も内臓も、身体のあらゆる機能が停止している。  さすがにこのような残虐なショーは初めてで驚いたのか、少し場所を移動した者も幾人かいた。だが、大多数は好奇の目でしか見ていない。  念の為もう一度通電してみたが、電圧の強さに比例するようにほんのわずかに仰け反ったのみで、生の反応は示さなかった。  八代が存命であれば手を叩いて喜んだだろう、と考えつつ鷲尾自ら簡単な検死をし、そして腕時計を見やり正確な時間を確認をする。 「午前ニ時八分……美波薫雄、死亡確認」  確実に死んだ。  自分が幸せだと思い込んだままの人間に、死刑という名の安寧を執行してやった。  その場に相応しくない拍手が広間に鳴り響いた。  まるで彼は現世というつまらない世界から天国へ旅立っただけ……そんな狂気極まりない空気に包まれていた。 「しばらくしたら処理を行いますが、お近くで見てみたい方はどうぞこちらへ」  そう言うと、VIP会員を筆頭に、物珍しさを求める会員達がワッと舞台へ押し掛けた。  上層を見上げる。想悟が降りて来る気配はない。  さすがの彼でもまだまだクラブを知ったばかりの新人だ、逃げ腰になっただろうか? だが、それではとてもじゃないがこのクラブを任せられない。  と、片耳に装着していたインカムから、興奮とは程遠い……愛想を尽かしたかのような冷めた声で、「悪趣味野郎」と聴こえた。  ああ、最初から最後まで見てくれていたし、逃げなかった。それでこそあの悪鬼の血を継ぐ男だ。  鷲尾は二人だけがわかるよう、くすくす笑った。  邪魔になってもいけないので、鷲尾は舞台を降りる。そして、両腕を後ろ手に拘束された真鍋の元へ歩み寄った。 「う、そ、だ……し、シゲ……はぁっ……はぁっ……あああぁぁぁ……うぐ、オエェッ」  その様子を特別に会員を差し置いて一番前の席で目の当たりにした真鍋が、信じられなさそうに目を剥き、あまりに凄惨な場面に耐え切れず吐いていた。  彼にはどれだけ言葉で諭しても無駄だ。だからこうやってクラブへ連れ出し、現実を見せてやる必要がある。 「……どうしたんですか、真鍋さん? ああわかった、羨ましいんですね。そうですよねぇ、美波さん、とっても幸せそうでしたもんね。心配しなくても、いずれあなたもああやって壊して差し上げますから、楽しみにしていてくださいね」  鷲尾は空恐ろしくも、近いうちに現実となるだろう台詞を言ってのけながら、震える真鍋の背をさすってやった。 「でも目前は、こっちです」  そのまま違う方を指を指す。  二人の背後には、美波のショーを鑑賞しつつ、個人的な相談にやって来た蓮見が立っていた。  そしてサングラスの奥で縛られた真鍋を見つめると、ニヤリと口元を揺らす。 「俺は鷲尾さんと違ってよォ……オッサンに欲情する趣味はねえんだよな。だからその代わりっちゃあ何だが、小遣い稼ぎに貸してほしいんですよ。何しろ、こいつにはうちのジジイも迷惑かけられたことがあるんでね。要するにこいつは蓮見の、いや黒瀧全体の汚点なんです」 「ああ、いいよ。ただし殺さない程度に。万が一でも俺の目の届かないところで何かあれば……」 「わかってますって。それに、鷲尾さんの怖さをその身で知ってるのは、こいつでしょう」  真鍋は悔しそうに目を逸らした。 「自己紹介してやれよ」 「おっとそうだった。俺は黒瀧組長の孫の蓮見恭一ってもんだ。真鍋貴久……てめえも黒瀧にはずいぶん振り回されただろう? この名前、よーく覚えとくんだな」 「……黒瀧のオトモダチがいるたぁ鷲尾、テメェは正真正銘狂ってやがるぜ」 「何とでも。……そうだ、せっかくですから真鍋さんも美波さんの死体、近くで見て行きますか? 一応は密接なご関係だったんです。最後のお別れくらい、しても良いのでは?」  せめてもの抵抗とばかりに、唾を吐きかけられた。 「何やってんだこのチンピラふぜいが! てめえもあれの後追いするか? ああ!?」 「まあまあ。殺すのはなしって言ったばかりなのにそうカリカリしない。……だろ、蓮見?」  言葉の裏にある冷たさに、蓮見も真鍋も黙ってしまった。  殺さない。真鍋だけは、今は、絶対に殺さない。  だから美波のように簡単に死んでは困る。美波とは違い、真鍋には今後もやってもらいたいこともある。  それに、どれだけすれば彼は生死を彷徨うのかも、興味がある。  完全に焼け焦げて皮膚はまだらに黒く、少量の煙さえ出している美波の無残な亡骸に、鷲尾はもう目も向けなかった。

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