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28-3 ※四肢切断、NTR

 男の体液まみれとなった晃は、全裸のまま巨大な十字架に磔にされる。  まるでイエス・キリストを彷彿とさせる、実に晃に似合いの慈悲深い姿だと思った。  鷲尾はそんな晃の前に立つと、彼の顔を見つめた。  憔悴しきった表情で、これから何が行われるかわかっているだろうに、もう抵抗する力もない。 「最期に言いたいことは?」 「…………れ、いじ、くん……僕……僕ね……君のこと……どんなことされても……恨んだり、しないよ……」  やつれきった晃が顔を上げて鷲尾の双眸をじっと見つめた。  これほどまでに汚し尽くされてもなお、強い意志のある瞳。 「信じて」  ……俺の思った通りの答えだ。  ありがとう、篠宮晃。  俺をこんなに楽しませてくれて。お礼に認めてやるよ。  お前は俺の人生の中で、最高の親友だ。  お前は大した男だ。  お前がいてくれて良かった。 「わかったよ……晃」  鷲尾は人生でたった一人きりの“親友”にとびきりの笑みを向けてやった。 「さよなら」  鷲尾の合図で、晃の四肢めがけ刃が振り下ろされた。 ◆  社長室の大スクリーンで凌辱の動画を見せ付けられた篠宮は目を背けることもできずに、絶句していた。  自らの血の繋がった愛息子が、殺害依頼をするほどに恨んでいた男の息子や名も知れぬ男達に犯されている絶望とは、どれだけ深く屈辱的なものだろうか。 「……や、やめ、ろ……もう、やめないか……」  威厳のある彼からは聞いたことのないような、か細く震えた声音。 「そんなことを仰らずに、篠宮社長。よくご覧になってくださいよ。ご子息の家族を守る為の勇姿を」 「これは……私への復讐……か……?」 「復讐?」 「しらばっくれるのもいい加減にしないか! さすがはあの憎い忠志の息子だ、お前も私の大事なものを全て奪っていく! 庶民のくせに私より成績が良くて! 仕事もできて器量の良い嫁を貰って! これ以上何が欲しいと言うんだ!」 「それを逆恨みって言うの、ご存知ですか? それに……俺の目的はそんな柔なものではありません」 「なに……?」 「晃はまだ犠牲者のたった一人目に過ぎない。俺が求めるのは、篠宮家を再起不能にさせること。もちろん、お前も含めて……な。“元社長”」  鷲尾がそう言い終わるのと同時に、晃の手足が切り落とされるシーンが映り、再生が終わった。  その瞬間、篠宮の目が大きく見開かれ、魂が抜けたように膝から崩れ落ちた。 ◆  鷲尾が当初の復讐計画を実行してから、実に二年の月日が流れていた。  二十八歳となった鷲尾は、未だに煌成堂に勤務している。晃の穴埋めもあるのか、営業部では主任に昇格した。  そしてもちろん、夜はクラブにも顔を出すルーチンは変わっていない。  ──鷲尾のよく知る篠宮晃はこの世から死んだ。  だが、誰かが居ないと食事も排泄も移動さえも何もできない肉達磨としてはかろうじてまだ生きている。  オーナーが居なくともクラブの医療チームは優秀だ。鷲尾も応急処置くらいはできるのだ。  とはいえ、ショック死しても不思議ではなかったのだが、そこは晃の生命力が勝ったという訳だ。  食事と風呂を済ませ、個室のベッドに寝かせると、さながら小さな子供にするみたいに鷲尾も添い寝してやる。  髪を撫で、背中をポンポンと一定のリズムで叩きながら、すっかり得意になった寝かし付けの真似事を行う。 「晃……ああ……こんなになってまで生きているなんて……実に惨めで残酷だなぁ……」 「っ……ひゅ……はーっ……」  晃はなにか言いたいようだが、声にならない音が漏れるだけだ。  手術の際についでに全ての歯を抜き、声帯も潰しておいた。今はもう喋ることもできない。 「こうやって静かになると、うるさかった頃が懐かしいな。……うん? 俺がなくしたくせに、馬鹿言うなって思ってる? ははは、冗談だよ」  「今は今で素敵だ」……そんな風に、当人としてはあまりにも酷な口を聞いてみる。  全ての介護を他人に任せざるを得ない晃は、若くしてそんな肉体にされたことが屈辱的なのか、もうそんな元気すらもないのか、ただひたすらうなだれるばかりだった。 「なあ、お前の娘──愛美(まなみ)だけどな、毎日すくすく成長してるぞ。今では俺のこと、まだたどたどしくはあるけど、『パパ』だなんて呼び始めてるんだ」  そう言うと、鷲尾は晃の顔の前に携帯を突き出してある動画を見せてやる。  愛は美しいものだ、と鷲尾にも言ってのけた晃と全く同じことを吹聴してみたところ、美鈴は大喜びで娘の名前を決めた。  愛美というのは、晃がもし子供が娘であったなら絶対にそう付けたいと他愛もない日常生活の中で口にしたものであったが、真の名付け親が誰かは美鈴は知らない。  むしろ晃のことは、今ではろくな人間ではなかった、あんな男を選んだばかりに戸籍にバツがついてしまったと呆れ果てている。 「父親面をするというのは思ったより良いものだな。まるで一人の人間の創造主になったような気分になる」  晃と美鈴の娘は一歳を過ぎ、少しずつ意味のある言葉を話せるようになり、掴まり立ちから危なげない歩行もできるようにもなってきた。  幼児用の玩具で元気に遊ぶ様子。離乳食を口元やよだれかけを汚しながらもおいしそうに食べる様子。  感情表現が豊かすぎてイヤイヤ期が早めに来てしまった感は拭えない部分もあったが、それもまた健やかな発達の証であろうし、何よりポジティブな晃の遺伝子がそうさせているのだと思う。  そしてさながら夫婦のように仲睦まじくそれを見守る鷲尾と美鈴との様子。本来は晃が居るはずだった家族の姿。  それに鷲尾はつけ込んだ。  晃が失踪してからの美鈴の傷心ぶりは今にも自殺するのではないかというほどであり、以前から信用を勝ち得ていた彼女を落とすのはことさら簡単だった。  そんな気はさらさらないが、今は結婚を前提に付き合っている。  美鈴の家族や会社でも、表向きは誠実な鷲尾との関係は既に公であり、むしろ一緒に居てくれた方が安心できると彼女の両親からはわざわざ頭を下げられた。  それもそうだ。晃が身重の美鈴を捨て、見知らぬ女と逃げたと思い込んでいる周りからすれば、よっぽど鷲尾の方がお似合いで頼りになるからだ。

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