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28-4 ※四肢切断、NTR

 また、肝心の篠宮輝明に関しては、あれ以来廃人と化して今は精神病院に隔離されている。  鷲尾の想像以上に精神へのダメージは激しく、思考回路が完全に破壊されてしまったらしい。  ずっと反応を示さず黙り込んでいたかと思えば、急に訳の分からないことを叫びながら強化ガラスに頭を打ち付けたり、髪の毛が抜け落ちるほど掻き掻るなどの自傷行為の繰り返し。  希死念慮や暴力性も高く、事態を重く見た医師によって拘束も余儀なくされていた。人間というよりまるで獣のようだった。  何らかの妄想に囚われている分、現在の晃よりも楽であろうか……そう考えはするものの、親戚は仕方なく医療費を出すだけで、誰一人面会どころか引き取って介護するだとか名乗り出てこないのは、元気だった頃の篠宮の言動にも問題があったことは明白だ。  誰も関わり合いになりたくないどころか、煌成堂の空いたポストを誰が継ぐかで内輪揉めになっていた。  まったくとことん馬鹿な家系だ。今に工作をして役員達を一網打尽にしてやる予定である。 「どうだ? 本当に可愛いだろう。これなら将来もこのクラブの奴隷として素質十分だな」  悲哀の表情で我が子を見ていた晃の顔が強張った。  そんなもの当然だ。  どれだけ小さくとも“篠宮家”の血を継ぐ者として、このまま表舞台で健やかに生かしておく訳はない。 「可哀想な愛美。本当のパパは身重の母を残して不貞を犯したあげく蒸発したクズと憎みながら育つ」  せいぜい好き勝手に使ってやる。  篠宮の血が入る自分を呪うよう、殺してくれと叫ぶよう、箱入りのお嬢様として大事に守り育ててやる。  少々熟れてはいるが、美鈴もオマケとして出品すれば、クラブ育ちの完璧な奴隷の母親として価値がつくのでそれも良いかもしれない。 「あ。愛美もせっかく俺に懐いていることだし、きょうだいを作ってやるのもこれまた一興かな。俺と美鈴の子なら相当なハイブリッドになる、それなら例え男児でも需要はあるだろ」 「っは…………ぁ、あぁ、ぁああっあああああああああああ……!!」  他人の妻と子をすっかり自分の所有物のように語り、あげくクラブに堕とそうとしている鷲尾に、晃は滝のように涙を溢れさせ、ブルブルと身体を震わせた。  大声で叫びたくとも、嗚咽しか出ないよう改造されたことがさらに皮肉だった。  悔しさではない、恐怖だ。  そんな悪魔の所業を平気でやってのける人間を前にして、底知れぬ恐怖が彼の心を絶望させている。  こんな晃は初めてだ。娘については想定外であったが、やはり子煩悩で、妻想いの晃らしい反応。  家族全員を地獄に堕としてやるという野望は決して無駄ではなかった。 「俺が忠志の子として生まれ、お前が輝明の子として生まれた時点で……俺とお前はこうなる運命だった……仕方ないんだよ」  大粒の涙を流す晃の耳元で妖しく囁く。  晃がこれほどまでに身を粉にしてきたことが全て無になってしまう、最も残酷な真実を。 「あそうそう。お前の父親が俺の両親を殺したって話、あれ嘘なんだよな。まあ元クラブ会員である以上少しは確かに関与してたかもしれないけど? それにしたって、お前って奴は、親友の言うことだからと素直に信じて、こんな風に落ちぶれる始末……ったく馬鹿な家族だよなぁ! あっはっは!」 「っひゅ……っぁ、がはぁ……っ!?」  軽く笑い飛ばす鷲尾に、晃は涙さえも止まってしまうほど凍り付いた。  もしも……これでも、こうまでしても本当に恨んでいないと言うのなら。  クラブにとって最高の逸材だ。  さて、次は目をくり抜こうか? その次は耳を千切る。鼻もいいな。こいつの舌はなかなか気持ちが良いからもったいない気もするが、引っこ抜いて味覚を奪ってやるのも面白そうだ。そう考えるとまだまだ楽しみは残っている。  だが、そんなことをしていてもいつかは飽きてしまうだろう。鷲尾はそういう人間だ。  だから、今は晃が興味を惹く生き方をしてくれることを願っている。  飽きたところで……どう始末してやろうかと考えるのも、それはそれで魅力的なのだが。 「俺が居なくなった暁には……そうだな……せいぜいクラブの虫けらどもに可愛がってもらうといい。お前にはそれが似合いだ」  晃よりも長く生き、彼の最期を見届けようだなんて責任感は欠片も抱いていない。  鷲尾は声を詰まらせる晃を優しく撫で、微笑みかけた。  この復讐は、自身の手で下すにはもう終わったも同然だ。  ああ、これが燃え尽き症候群というやつだろうか?  以前のように、何かに突き動かされる感覚が欠落している。何もする気が起きない。  でもこんな時には、すぐに別のことを考えて実行すればいい。  人生は有限なのだから、くだらないことにうんうん唸って行動しないでいる時間は、鷲尾にとってとても苦痛だ。  そうだ、良いことを思い付いた。  というより、ようやく本来の目的を思い出せた。  神嶽様。  神嶽様神嶽様神嶽様神嶽様神嶽様神嶽様。

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