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第3話
「いただきます」
しっかり両手を合わせて挨拶してから食べ始める朝陽に合わせ、こちらも手を合わせていただくことにした。こいつと一緒にいると行儀がよくなる気がする。
朝陽の食べ様は豪快ながら下品でなく、なにを食べてもおいしそうに見せてくれる。とはいえ元からあまりクリームの類を食べない俺としては半分くらいがちょうどよく、あとは食ってくれと朝陽の方に皿を寄せた。
すると皿よりもなぜか俺の方に注目されて。
「ふふふ、那月さん、ついてますよ」
人差し指で俺の唇の端を拭った朝陽は、微笑んでその指を自分の唇へ運んだ。
形の良い唇が開かれ、赤い舌が覗いて白いクリームを舐め取る。
その場面だけがやけにエロティックで。
「意外とこういうとこ可愛いですよね、那月さんって」
無邪気な顔で口説き文句のようなセリフを口にする朝陽に感心する反面、指を舐める姿にムラッとくるのが大人の男だといい加減わかってもらいたい。
とても楽しそうにケーキを平らげ、優雅に紅茶を飲み干す辺り、まるで高級なレストランかカフェで食事しているような雰囲気を漂わせているけれど場所はあくまで俺の家。
「片付けは僕がやりますね」
「それはいいから」
だからためらいなく二人きりであることを利用させてもらう。
皿を持って立ち上がろうとした朝陽を引き留め、向かい合わせにして座らせた。
「こっちもいただきますさせろ」
「ん-、その前に歯磨いてきていいですか。甘いもの食べちゃったんで。ついでにシャワーも」
「後でな」
「ん」
この雰囲気で真面目にとぼける朝陽の唇を問答無用で塞ぐと、そのままキスを繰り返しながらソファーの上に押し倒す。
お行儀の良さは朝陽の魅力の一つではあると思うけど、今は別。
王子様は隙が多すぎるから、そういう隙を作ると俺みたいな悪い男に狙われるんだってことをわからせないといけない。
本当に、よくもこんな危なっかしいやつが今まで無事でいれたものだ。
「んん、あまぁい」
「クリーム味のキスとかメルヘンすぎだろ」
甘ったるい唇を拭って、シャツに手をかけた瞬間だった。その手にそっと触れた朝陽は、緩く首を振って俺を見上げてくる。
「ダメだよ、悪い子ちゃん。ベッド行こ?」
……そんな誘い文句あるかよ。
ついこの間まで、オメガということを周りに秘密にしながらアイドルをしていることが理由でなんの経験もなかったくせに、あっという間にこれだから飲み込みの早い奴は恐い。
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