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第7話

「まだ分からない?ボクたち、セックスもしてるの」  やっと、吉良川(きらがわ)とキスをできるかどうかというところだった。 「じゃあ、セフレ…………かよ」  櫻岬(さくらざき)の声音は侮蔑の色を孕んでいた。眼鏡の奥にある目が沈んでいくのも見えない。 「セックスよりキスしてる数のほうが多いし、キスの延長だし、それだけでセフレって、べいべって結構純情だよね」  柊は吉良川の身体中を撫で摩り、それでいて顔だけ櫻岬に向けている。所有を主張しているように見えた。 「セックスとキスじゃ全然、違うだろうが……」 「べいべ、ちゃんとここのとこのハードル越えられないと、きらりんにキスするだけして、燃え上がらせて放置なんでしょ?それって残酷じゃない?」  柊は柔和に笑っている。 「べいべが思うよりずっと、きらりんはココロもカラダも感じやすい子なんだよ。今も立てないでしょ。興奮しちゃって。べいべ、観にきてよ」  吉良川が柊にしがみつく。何も口にしなかったが、「それはやめろ」と言っているのが分かった。 「何を………?何を観ろって?」 「セックス。ボクときらりんのセックス、観て」 「柊、何を言って…………櫻岬だって、そんなの見たくないだろう……?」  吉良川は必死で柊の服を掴んでいる。頭を振りながら嫌がっている。柊と吉良川。男同士はどうセックスをするのか……この2人がどういうセックスをするのか、想像しかけてやめてしまった。 「べいべはボクたちのセックス、きっとハマるよ。キスよりハマっちゃったら、もうセフレだね?」  柊の言葉の意味は理解できるが、いまいちよく分からない。頭が拒んでいる。 「ハマらない、そんなことはないんだって、じゃあきらりんに態度で示して。そんなのは萎えるって。べいべ、自分ならきらりんに興奮しないし、そういうの要らないホントの友達になれるってさ……態度で、示さなきゃ」  首を捻りながら指を鳴らす仕草は挑発的だった。櫻岬は吉良川を見る。柊は意地悪するかのように彼を抱き竦め、隠してしまった。 「断ってくれ、櫻ざ……、」 「きらりんは黙ってて?」  吉良川は眼鏡を奪われ顎を掬われ、その唇を塞がった。捕食されたみたいなグロテスクさを覚えて櫻岬は顔を逸らす。 「ん………っふ、ぁ……」  聞き慣れた質感の、知らない声が微かに耳に届いた。視界の端で崩れ落ちる影で櫻岬は2人の間に透明な糸が伸びるのを目にしてしまった。 「もう立てなくなってる。べいべが見てくれるかも知れなくて、興奮しちゃった?」  ひとりで立てなくなっている身体を柊が支え、そして頬擦りしている。 「や、やめろよな……第三者(ひと)に見せるものじゃないでしょうが」 「べいべならいいかなって。ね?きらりん。ベイベとお友達になりたいんだもんね?」  吉良川を引き摺るようにして柊は建物の中に入っていく。櫻岬は肩を叩かれた。 「来なよ。ここでバイバイして、このままきらりん、見放すワケ?」  そうだ、と肯定して立ち去ることもできた。しかし意地が生まれている。何よりも、吉良川と2人きりになった柊が飄々と能天気な仮面を剥がし、吉良川をちくちくといじめはしないか、そこが気掛かりだった。やめておけ、と冷静な部分は訴えているが、売られた喧嘩をつい買ってしまう。  柊の肩に抱かれた吉良川が振り返る。戸惑いを受け取る。それでいてすまなそうな顔をしたのを櫻岬はのほほんとした間抜けっぽい顔で見ていた。  柊は空いた教室を見つけて後ろをついてくる櫻岬に構うことなく吉良川を放り込む。この空き教室は机や椅子があらかじめ設置されているものではなかった。教室の後方にテーブルが寄せられ、そこに木椅子が逆さまに積まれていた。新しい建物と使い古された感じのある木椅子がアンバランスだった。講義の形態によって配置が変えられるのだろう。  吉良川はホワイトボードのほうに立たされる。そして彼の講義を受ける学生の風情で柊は対面するように屈み込んだ。膝に肘をついて、あざとく両頬を支えている。 「ボクにして欲しいコトあるんだよね?どうやって、誘うんだっけ」  櫻岬が出入口付近で立っていると柊は手招きをした。ひとり前に立たされた吉良川はもじもじと落ち着かない。 「そうやってるきらりんも可愛いけど、きらりんをキモチヨクするところ、自分で大きく硬く、できるよね?」  櫻岬は穏やかながらも高圧的なところのある柊と、気圧(けお)された様子の吉良川を見比べた。梅干しみたいに顔を真っ赤にし、潤んだ目が泳いでいる。櫻岬は髪を掻き乱して唸った。 「やめろよ。いじめみたいだろ。"みたい"は余計か。吉良川も、イヤなら断れって」 「イヤじゃないから断らないんだよ?ね、きらりん。べいべは優しいね」  柊はにっこりと笑っている。櫻岬はそれを胡散臭そうに見つめた。 「……っ」 「きらりんの所為でべいべに嫌われちゃうな。ボク、べいべのコト好きなのになぁ」  哀れなほど追い詰められた様子の吉良川を少しの間、櫻岬は黙って観察していたが、彼の裾を掴む手が震えているのを見ると、面倒臭そうに喚きはじめた。 「あー!もう!イヤならやめとけよ!弱みでも握られてんのか?」  櫻岬は顔を真っ赤にして指を戦慄かせている吉良川の腕を取って、彼を連れ出してしまった。腕から辿り落ち、袖を摘んだ。それから外へ出て放す。 「櫻岬……」 「うん」 「戻らないと……」 「はぁ?」  彼は悄然としている吉良川を振り返った。 「いいよ。戻るな」 「櫻岬だけ、戻ってくれ。巻き込んで悪かった」 「訳分からん。イヤなんじゃないのかよ」  吉良川は項垂れたままだ。 「あいつは、櫻岬の思うほど、悪いやつじゃないから……」 「あくまで柊を庇うワケね」 「そういうんじゃ…………」  言い合いになりそうだ。櫻岬から折れることにした。 「吉良川が行くならオレも行くけど。いいん?」  彼は視力矯正をする器具を奪われたまま、目を細めてはしぱしぱと屡瞬(しばたた)く。 「来なくていい……面白いものでもないだろう…………」  ちらと櫻岬は吉良川を瞥見する。 「なんか2人にしておけないんだよ」 「……櫻岬」 「見守るっつーと、何サマ?ってカンジだけど。傍に居てみる」  今度は吉良川は櫻岬の服を摘む番だった。躊躇いがちに伸びた指が怯えている。 「なんだよ」 「来るなとは言わないから……引かないでくれ」 「ドン引きはしないよ。引いたとしたら柊のほうだよ、ここまできたら。吉良川、かわいそうだ」  しかし吉良川は複雑そうな表情を寄越すだけだった。  柊は2人が戻ってくるのを見越していたかのような態度で、それでも言動は白々しく意外げなふうを装っていた。その点を糊塗しようもしないのも底意地の悪い感じがある。 「偉いねぇ」  両手を打ち鳴らしてそう言うところは間違いなく煽っている。櫻岬は渋々とひとり盛り上がっている柊の隣に2人分ほどスペースを空けて屈んだ。 「もっとこっち来てよ。きらりんのセクシーなパフォーマンス中、ボクとイチャイチャしよ?」 「き、気持ち悪……」 「なんでよ。ボク、べいべ可愛いから好きなんだケドなぁ?七瀬ちゃんもべいべのコト、顔かっこいいのにかわいいって言ってたよ?」 「知るか」  手招きを無視する。それから吉良川と視線がぶつかり、逸らされてしまった。彼は観念したように肩を落とし、服の上から自身の胸を触りはじめた。 「緊張してるね、きらりん。もっと小さなところ触るんだよね?」  やじを飛ばす柊を櫻岬は胡散臭そうに横目に見た。吉良川はまた火が出そうなほど真っ赤な顔をして健気にこくこく頷いた。桃色に染まった指先が二点を同時に捉えた。 「ん……っ」  思い切り顔を顰めた櫻岬は、目を輝かせた柊を睨む。聞いたことのない吉良川の吐息が生々しく耳に届いた。 「べいべ」  柊も櫻岬のほうに首を曲げる。距離を詰めたかと思うと、頭を両側から押さえられ、前を向かされた。戸惑った吉良川と視線がぶつかる。視力の低下している彼は頼りない表情で目を逸らそうともしない。 「放せよ」 「きらりんのかわいいところ、ちゃんと見ててあげてよ。ボクのコトちらちら見るんじゃなくて。なになに、もしかしてべいべって、ボクのコト好きなん?やめてよ」 「そんなわけあるか」  後ろにいる大きな図体の持主を追い払う。開き直ったように片膝に頬杖をついて吉良川を見つめる。前に立たされ自分の乳頭を突ついたり、捏ねたりするのもなかなかの羞恥だが、それを見せつけられるのも羞恥を煽られる。相手が顔見知りでなければ割り切れたのかも知れないが、今目の前にいるのはそうではない。意外にも素直で繊細で、櫻岬自身、まだこれからの関係を考えていないわけではない相手だ。今後どう接していいのか分からなくなりそうだった。まだこの点に関する開き直り方を知らない。オレって純情なんだな、とこの何かと偏見を持たれがちな櫻岬はどこか他人事のように思った。 「ボクは絶対的異性愛者(ストレート)だからね。べいべのコトはカワイイと思ってるケド。顔がカワイイよね。小っちゃいのにカッコいいところあるし」 「小っさくねぇわ」  柊や宮末と比べれば確かに身長は低いが、それでも櫻岬は自分が特別小柄だと思ったことはない。 「豆粒みたいだよ?顔がカワイイからかな?ボクのカノジョより小さいのかと思った」  べらべらと喋る口の上で、双眸は身悶えている吉良川を離さないでいる。その眼差しは獲物を確実に仕留める算段に入っているようだった。 「170あるんだけど」 「170?カワイイねぇ。豆粒じゃなくて胡麻だね。きらりんのびーちくちゃんより小さいんじゃない?くりくりしてあげよっか?」 「あんたがデカ過ぎるんじゃない」  とはいえ柊もバスケットボール選手やファッションのコレクションモデルに混ざれば小柄な部類だろう。 「きらりん、やっぱり緊張してる?いつもはそんなじゃないよね?ボクがカノジョと話してるの邪魔してくるくらい感じまくっちゃうよね?どうしたの?べいべの前じゃ不感症なの?」  見学者を揶揄っている間も彼は吉良川から目を離してなどいなかった。いくらか声音を尖らせるその様は、明らかに威圧している。服の上から胸を擦っている吉良川は艶めいた表情をしながらも戸惑いを隠せていない。 「なんだよ、カノジョって。はあ?」  先に口を開いてしまった。 「電話でお話してるんだよ?カノジョだからね、お電話するでしょ」 「吉良川誑かしながら?」 「誑かす?誰が誰を誑かしてるの?もぉ!」  頬をぷくぅと膨らませ、彼はあざとく仕草を作る。 「吉良川!もうこんなやつに付き合うのやめようぜ」 「やめないよね、きらりんは。ボクに首ったけなんだもん。ね?―正しくは、ボクのカラダに」  櫻岬は露骨に眉を顰める。 「ね?きらりん、ボクの欲しいでしょ?頑張って、ほら。べいべなんてかわいいヒヨコちゃんだと思えばいいんだよ」 「ムカつく」 「そう言わずに!きらりんを救うと思って、今はかわいいヒヨコちゃんになって?」  それから吉良川が自分で自分の乳頭を甚振り、立ちながら身をのたうたせるのを見ていた。神経質そうな指先が狭い範囲を一生懸命繰っている。荒い息遣いと掠れた声が距離を作っていてもよく聞こえた。外からは無邪気な会話が入ってくる。それがこの異様な状況を引き立たせた。やはり異様だ。 「ただつんつんするだけでいいの?きゅっきゅってしてあげないと、きらりん、物足りないよね?ボクにして欲しいのかな?それとも今日は、スペシャルゲストにしてもらう?」  彼は疑問符を付けるたびにあざとく左右に首をこてんこてん捻った。 「べいべ、きらりんのぷりっぷり乳首、さわさわしたい?」 「したくない」 「なんで?」 「逆になんでしたいと思ったの?頭に銃口突きつけられてたら、やらないこともないけどさ」  許しを乞うような濡れた瞳が会話を打ち切る。一生懸命に乳頭を刺激する様が健気で、櫻岬の中には妙なギャップのあるおかしな情感を芽生えてくる。 「きらがわぁ」 「どしたの、そんな声で」  間の抜けたような声に、呼ばれた者よりも柊が先に反応を示した。 「ぅ……んっ、さくらざき、」  神経質そうな爪が鱗みたいに照った。小さい部位を捏ね回すたびに白くなる。 「んっ、さくらざき、さくらざき………」  腰が落ち着かない様子で、彼は櫻岬をあどけない声音で呼んだ。なんだか悪い気がしない。 「ぁ……っ、んん……あぁ………」  目蓋を下ろし、吉良川はぴくんと震える。股ぐらは大きく張り詰めていた。布に鋭く突起を作っている。 「出したい?」  柊の問いに吉良川はこくこく頷いた。蕩けた顔は締まりがなく、開きっぱなしの口からは涎が垂れ唇がとろとろと濡れている。櫻岬はあまり意識しなかった、男女ともにあるその部分がそこまで彼を追い詰めてしまうという事実が、どこか衝撃的で卑猥だ。 「出して?」 「何を?」  櫻岬は口を挟んでしまった。 「とりあえず今はおちんちんだよね。このままぴゅっぴゅしたら汚れちゃうし、きらりん神経質だから、そんなのイヤでしょ?」  この状況もこの状況だが、露出狂そのままのことをさせる発言に櫻岬はぎょっとした。 「出したら直接乳首触ろっか」  吉良川は柊の言いなりだった。スペシャルゲストを気にはしたが、陰部を出し、そして素肌に触れた。股間部に触れず育てられた勃起は心做(こころな)しか中途半端な快感に悶え苦しんでいるようだった。膨張が見える。これ以上ないほどに吉良川は顔を真っ赤にして、またもや陰茎を大きくした。少し皮を被っていたのが、今では完全に先端部を露わにしている。 「触りたいね。乳首くりくりするのやめて、自分でシコシコしてすぐイきたいよね。でもきらりんは乳首イきのほうが好きでしょ。乳首イきしたときは、深くて気持ち良さそうだもん。このままくりくりしてなよ。べいべに乳首でぴゅっぴゅしちゃうところ見せてあげよ?すごいことだよ?べいべ、驚いちゃうね」 「あのなぁ」  出汁(だし)に使われているのは分かっていた。 「ぁ、んっ………さくらざ、き………」  指がぐりぐりと()る動きをする。甘たるい調子で呼ばれると櫻岬は柊への悪態を忘れてしまった。 「さくらざき………」  舌足らずな喋り方と、涙ぐみながら虚ろに蕩けた眼が、櫻岬が理屈的な部分を奪っていく。 「吉良川……」  素肌の本当に小さなところを神経質な指は几帳面に摘んで擂り潰し、捻っていた。 「あ……!ぁっん」  吉良川は仰け反った。生唾が口腔に溢れていくのを櫻岬は認めたくないあまり、柊を見遣る。 「ぁん……っ、あ、イく、!」  曇った嬌声がより甲高くなり、吉良川の腰ががくがく揺れた。櫻岬は目を見開いて、唖然としながら乳頭のみで射精する生々しい光景を眺めていた。 「あ………あ、……」 「イっちゃったね、きらりん。こんなんじゃ、足りないよね」  声音こそ優しいが圧のある物言いを右から左、或いは左から右に聞き流しながら、櫻岬は内側から熱くなっているのを冷ややかに無視しようと努めていた。 「欲しいなら言って?」  彼はどちらに言ったのだろう。 「言えたら全部あげる」  瀞んだ目が困惑し同情を乞うみたいにまず柊を捉えたが、まだ迷っている様子で櫻岬を気にする。 「要らないかな?今日は遠慮する?ボクのちんちんもきらりんがカワイイから大っきくなっちゃったケド、仕方ないよね」  ふんふんと鼻歌を歌って柊は軽そうに尻を上げた。 「ま、待って……」 「だいじょーぶだよ?トイレでぴゅうぴゅうしてくるから。きらりん、今日は最後までしたくないんだもんね?あれれ………手、休めなくていいんだよ?きらりんはひとりで気持ち良くなってなよ」 「あ、あ、……っ」  吉良川は小さな実粒を転がして背筋を逸らした。びく、びく、と跳ねている。 「柊!」  訳も分からず容喙(ようかい)した。認めたくない蒸し暑さが背中と服の間に籠っている。臍の下辺りが鈍く重い。腿から膝にかけて、貧血のように力が入らなかった。異様な血の騒めきに五感がついてきていない。このあらゆる違和感、妙な感覚のすべてを柊がどうにか出来そうな気がした。櫻岬にしてみれば 彼がこの後の自分と吉良川の運命を握っているような気がしてならない。 「あは、観たいよね。ここまで来て中断だなんてべいべに悪いよ。ほら、きらりん、おいで」  柊は吉良川に最も近い窓辺に寄り、桟に腰掛ける。 「舐めて」  吉良川は蹌踉と柊に吸い寄せられて、床に(ひざまず)いた。日頃の流れというものがあるのだろう。櫻岬の前でそこに会話はなかったけれども、吉良川は柊のボトムスに手を掛けた。180cmは優に超えているようだが果たして彼に合う既製品はすぐに見つかるものなのか、などと櫻岬は現実逃避をはじめていた。  吉良川の頭が浮沈する。室内にはじゅぽじゅぽと湿った音が立っている。響き自体は滑稽だが、出どころが出どころ、出し方が出し方だけに卑猥極まりない。 「いい子だねぇ……」  一生懸命に頭を上下させる吉良川の髪を撫で梳く柊の目は穏やかだ。しかしぐりん、と眼差しをよこす。逃げはしまいかとばかりの強い眼光で"スペシャルゲスト"を射したのだった。 「べいべも舐めてもらう?ボク好みに躾けちゃったケド、多分気持ち良いし、仕込むとそうとう巧いよ、きらりんは」 「う、ん………っく、」  何か言おうとしたらしい吉良川の頭に、彼はぐいと腰を押し付けた。喉を串刺しにされたみたいだった。 「んっんっん、ふ、ン………ぅん」  口淫のリズムは柊のものに変わる。吉良川は口で強靭そうな腰の動きを受け止めている。 「べいべもしてもらいな?」 「い、いいし………やめろよ。吉良川が壊れちまうだろ……………」  柊は首を傾げた。 「そうかな?」  ぬらぬらとした偉容な屹立が小さな口から引き抜かれた。じゅぼぼぼ、と空気の抜けるような音もする。吉良川の喉がカエルのように鳴いた。 「ほら、きらりん。べいべに勃起(おっき)っきしたの見せてあげて?ボクの舐めてシアワセなんだもんね?キモチイイんだもんねぇ?」  猫撫で声で喋っているが、柊の手は吉良川を掴み、振り回すようだった。そして無理矢理になすがままになっている身体から下着をずりさげ、確かに櫻岬は乱暴な口淫の最中にも勃っていたらしきペニスを目の当たりにした。しかしだからといって"シアワセ"で"キモチヨ"くても壊れないという保証はない。 「見たでしょ、べいべ。きらりんはだいじょーぶ」  彼はまた力任せに吉良川を抱き寄せ、自分のものを咥えていたばかりのその唇に押し付けがましいキスをした。スタンプのように何度も押し付ける。 「あ……っ」 「きらりんの一番カワイイところ観ててあげてね、べいべ」  湯中(ゆあた)りしてのぼせたような顔付きの吉良川は、もう櫻岬を意識するだけの余裕はないらしかった。 「指出してあげるから、自分で動いて」  小声が聞き取れる。柊は股間の辺りに指を2本、上を向けて突き出すと吉良川は徐ろにそこへ腰を落とした。 「騎乗位好きだもんね」  吉良川は虚空をぼんやりと凝らし、ゆっくりと一度下ろした腰を引き上げる。柊の腿に両手を添えているのが幼気(いたいけ)だ。 「あ………ぁ、う、」 「頑張って」  律儀に頷いている。櫻岬はすっと、目を逸らしてしまった。柊の腕の中では子供みたいになっている。それでいて子供ではしないような淫猥な行為をしている。ふと櫻岬の脳裏には宮末のことが浮かんだ。 「べいべ。観てて。ちゃんと観ててね?きらりんの一番カワイイところ」  呼ばれて2人を捉えた。柊は窓の桟から腰を上げ、吉良川を抱き竦める。 「挿れるよ」  また律儀に吉良川が頷く。2人のわずかな距離が埋められた。ずん、と柊の腰が吉良川の小さな臀部に衝突する。 「ああっ!」  みるみるうち柊によって体勢が作られていった。吉良川は後方で腕を組まされ、首には大きな掌が添えられて今にも首を圧迫しかねない。 「うわ………っ、とろとろ…………きらりん、昨日、自分でしちゃったの?」  柊が息を詰めた。問われた吉良川は掌に首を預け、ぷるぷると頭を横に振る。窒息を恐れ後退ろうとすると、挿入が深まり彼は目を見開いて戦慄いた。 「用意だけしてきてくれたんだ。助かる。妙に色っぽかったから、自分でしちゃったのかと思った。じゃあ、べいべがしてくれると思って、お腹の奥、疼かせちゃったのかな?」 「ち、が………っ、あひ、」  ぱん、と尻を叩くような乾いた音がしたが、柊は両腕で吉良川に組みついているのだから彼の尻を叩く手はない。代わりに腰で尻叩きをするように突き入れた。 「あっ……」  櫻岬はぼんやりと、喘ぎながら揺さぶられる友人を見つめた。彼の唇が小さく、声にも音にもならない名を譫言(うわごと)同然に呼んでいる。焦燥感が芽吹いた。

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