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誘惑の土曜日(2)
映画館。
いつぶりかなあ。
・・・小学生の頃、市民会館でやってたアニメに、近所のおばちゃんが連れてってくれた。あれは、ドラ○もんだったか、ポケ○ンだったか。
ここはビル一つが映画館になってるらしい。
「何にするかなあ~」
ロビーで上映中のポスターやモニターなんかを見ながら、土御門が言う。
「あ、ジョニー・デ○ップ出てる。割と好きなんだよね」
オレがそういうと、土御門はあっさり頷いて言った。
「ふーん。じゃ、それにするか?時間どうかなあ。次、二十分後だ。丁度いい」
土御門のチケットを入場券に変えてもらう。
「ポップコーンと飲み物買おう」
土御門が売店の列に並ぶ。
オレは土御門の後ろに並びながら、急いで言った。
「ここ、オレが払うよ」
「ん?オレが払うよ」
「チケットくれたんだし、オレにも払わせて欲しい」
土御門は少し難しい顔をしたけど、思いついたみたいに微笑んだ。
「じゃ、ゴチになろかなあ」
オレは大きくうなずいて、財布を取り出した。
「ここは、オレに任せろ!」
言いながら、マジックテープの財布をバリバリと開け始めた。
土御門が表情を引きつらせながら、オレを見た。
あれ?
尊敬されるはずでは?ステキーって言われるんだっけ?
「た、高橋が、マジックテープの財布を持ってる男子は、マジックテープ開けながら、『ここはオレに任せろ』って言うと、尊敬されるって…………違うの?」
オレはおどおどと説明した。
土御門はめちゃくちゃ笑いを堪えている。
「だ、だまされた?」
土御門は口を抑えて、笑いを堪えながらうなずいた。
なんだか、周りの人の視線が痛い。
ひとしきり、笑いの発作を堪えた土御門は、言いにくそうに、マジックテープの財布の話をし始めた。
「どんなにイケメン金持ちでも、マジックテープの財布を持ってる男はあり得ないって話で……正しくは、
支払いはオレに任せろ!
バリバリバリ
女の子がやめてー恥ずかしい
みたいな」
た、か、は、し。
「俺は別にマジックテープの財布でも、やめてっては言わないけどな」
オレは黙って札を抜くと、ジーンズのポケットに札をしまい、マジックテープの財布をバックの奥底に押し込んだ。
高橋、ブッ殺す。
そして早めに財布を買おう。
我に帰ると、順番が回って来ていた。ポップコーンは塩、飲み物はアイスティーのミルクとさっくり決める。
早くこの場を脱出したいです。
紙のトレーにセットされたドリンクとポップコーンを土御門がさりげなく持ってくれる。
エレベーターで目的の階につくと、劇場に入った。
「一番上ね」
後ろは壁になっている。
へー。一番後ろでもよく見えそう。
オレたちは指定された席に座った。
「ミルクとガムシロ、入れる?」
「あ、うん。つち・・・あ、ハルは?」
「いれよかな。俺がフタ取るから、なながミルク入れて?」
土御門がフタを取ったとこに、ミルクとガムシロを入れる。
「あ、オレの分は、かき回さなくていいよ」
オレが言うと、土御門が微笑んでフタをはめる。
「下が甘くなんね?」
「そこを吸うのが好きなんだよね」
「甘党なんだ?」
「脳には糖が必要なの」
真面目な顔で言うと、土御門がじっとオレの顔を見た。え、なにその目。なにかむずむずするんだけど。
その時、劇場が暗くなった。
ブザーが鳴る。
大画面、迫力あるなあ。俺は映画に夢中になった。映画も中盤にさしかかった頃。
ゴソッゴソッ
なんの音?あ、土御門がポップコーン食えって傾けて振ってるのか。
ちろりと土御門を見ると、ポップコーンを勧めつつも、映画を真剣に見てるみたいだ。組んだ足にポップコーンを乗せて、肘掛で頬づえしている。爆発のシーンで、一瞬明るくなった時に見える土御門は大人の男って感じで、こいつが同い年とはとても思えない。
ゴソッ。
またポップコーンが鳴る。
オレは手を伸ばすと、ポップコーンを取ろうとした。
その瞬間。
土御門は頬づえを解いて、
オレの手を握った。
え?
カチンとオレは固まって、状況を確認する。
土御門はオレの手を握っている。
なんでだ?
ポップコーン、食っちゃダメだったのかな?
つまみ食い!めっ!的な??
そろそろと手を引こうとしたが、土御門はがっちり手を握って離そうとしない。
土御門を見るけど、奴は映画の画面から目を離さない。
もう一度、手を引っ込めようとしたけど、手は抜けない。
多分、思い切り引っ張ればいいんだろうけど、状況が把握出来ないのに、騒ぎを起こしたくない。
オレは誰か見てないか気になって、辺りをキョロキョロした。
適当に選んだ映画は、新作ではなかったらしく、土曜日でもそんなに混んでなくて、俺たちの列には人は座っていない。
後ろは壁だから、後ろからは見られない。
誰かが振り向かなければ、誰にも見られない。
あれ?
ここ、死角?
つか、よく見ると、前のほうも結構席が空いてる。
この劇場の、みえやすい位置は多分真ん中辺りだから。
その辺りにも空きはある。
そういや、お好きな席が指定出来ますって、受付のお姉さんが言って、土御門が席を指差した。
この席を。
もう一度、土御門を見ると、キョロキョロしているオレの気配を感じたのか、こっちを見ていた。
「ハ、ハル?」
オレは抗議する様に、土御門に話しかけた。
土御門は艶然と微笑んだ。
ゆっくりとつないだままの手を持ち上げると、人差し指を立てて、唇に当てると、しーってした。
・・・騒ぐと気づかれちゃうよ?
目がそう言ってる。
それから、土御門はつないだままの手をひっくり返すと、オレの手のひらにキスをした。
オレの思考は完全に停止した。
戻されるがままに、肘掛に手が戻ると、土御門はゆっくりとオレの手を触りはじめた。
指の間に入った土御門の指が優しく手の甲をなでる。
ひっくり返された手のひらのいろんな部分を親指が絶妙なタッチで押していく。
手って、こんなに感じちゃうの?
オレは停止した頭で叫んだ。
指の股の間を土御門が強めに握ると、オレの手が震える。
土御門はオレの手首をつかむと、ゆっくり自分に引き寄せた。
手は下の方に下がって行く。
もしかして、土御門は欲情してるんだろうか?
もしかして、ここで満たされたいって?
嫌悪感はなかった。
ない自分がショックだった。
どんどん手が下がって行き、
オレの手は…………
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