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困惑の水曜日(6)

「ハル?」 「帰ろ?」 見下ろした目が笑ってない。 欲望の霧が晴れて、オレの中に疑念が産まれる。 やっぱりさっきのキスが嫌だったのかなとか、べらべらしゃべった告白とか、そもそもオレはなんでハルがオレを好きになったのかを知らないとか。 もしかして、軽い気持ちだったのかもとか。 「なな?」 顔を見られたくない。 オレは顔を見られないように身体を丸め直す。 「なな?」 ぎゅっと目をつぶると、ぐりぐりとハルの脚と布団の隙間に顔を埋める。 「帰ろ」 オレはつぶやいた。 急にハルがオレの身体をつかんで自分の上に引っ張り上げる。 持ち上げて向かいあわせに抱き寄せられた。 「なな?また……何かいっぱい考えてるんだろ?」 「ハルこそ、何、考えてる?」 「気がついちゃうんだ」 自嘲するように、ハルが笑う。 「ななに触りたいとか、見たいとか言ったら、引かれるかなとか、また逃げられるかなとか、そういうこと。逃げられたら嫌だから、我慢しようと思って」 「触るって。どこ?」 「いろんなとこ。ななが気持ち良くなるとこ全部」 「す、するってこと?」 「繋がるのは今日はムリ。ちゃんとしないとすっごい痛いよ?」 「し、したことあるの?」 嫉妬の滲んだ質問に自分でもうろたえる。ふわってハルが微笑んで、ますます恥ずかしくなった。俯きそうな顔をハルがすくいあげて、いいんだよって囁く。 「男とはない。女は中学んとき。ななを好きになってからは誰もいないよ。ななとどうすればいいかって調べたけど、実践はしてないから」 ハルはため息をついた。 「軽蔑するよな……カテキョのこともそうだし、家調べたりとか、さ。いろいろキモいことしたのに、好きだって言ってくれただけで充分なはずなんだけど。  キスしたら、触りたくなって、なな蕩けちゃってるから、勢いならいけるんだろうなあって。  でも、やめとこと思ってさ。  それが結構辛くて、うまく笑えなくて。そしたら、なながぐるぐるし始めてさ……最悪、だろ?」 オレに触りたいのに、我慢しようとしたんだ。 触りたいと思われたことも、我慢しようとしてくれたことも、大事にされてる気がして嬉しい。 「ここ、壁薄いんだ」 「そっか」 「く、車で、オレ、声でたし」 「すっげー可愛い声な」 「暑くて、汗かいてるし」 「それは別に気にならない」 「貧相な身体だし」 「それには異議がある」 「遊ばれてるのかなとか」 「遊びでこんだけ手間かけるとか、どんな変態なんだ、俺」 「オレのこと……好き?」 「大好き」 「キ、キスして」 「可愛い方?」 ハルが触れるだけのキスをする。 「可愛くないのも」 薄く口を開くと、ハルの舌が滑り込んで来る。ゆっくりと舌を絡ませると、優しく頭を撫でられた。 唇が離れると、ハルの肩に頭をくっつけてオレは囁いた。 「さ、触る?ちょっとだけ。こ、声、出ないくらい」 「……いいの?」 少し黙ってから、ハルが聞く。抱き締められた腕に力が入った。 「ハルが、さ、まだ……触りたいなら」 「触りたい……すごく」 耳元で低い声で囁かれると身体がぶるって震えた。 するりとTシャツの裾から腕が身体にまきついて、背中をなぞる。上まで登ってきた手がそのままTシャツを引っ張り上げて頭から抜いた。ハルも自分のシャツを脱いで、床に放り投げ捨てるとオレを抱き寄せる。 「声が出たら、やめなきゃダメなんだよな?」 オレは頷いた。 「じゃあ……静かにしてて」 汗の吹き出した身体をハルが丹念になぞっていく。感じる場所に触れると、唇がそこに触れて、優しく歯を立てた。 「めちゃくちゃキレイだ。白くて、細くて、滑らかで甘い。 風呂で見たとき、死ぬかと思った。あの時も……頭おかしくなるくらい触りたくて。 ななが、鏡の前に乗り出して……リュックで出来たアザを指でなぞってさ。なんでこんなエロいんだって」 肩のアザを強く吸われて、オレは自分の拳を口に当てて声を押し殺した。声を出せば終わるとわかっているのに、快楽の続きが欲しくてオレは声を殺し続けた。 「……溶けたチョコレートみたいだ。目も、身体も。蕩けてて……めちゃくちゃ甘い」 ハルの目が金色に輝いている。唇が喉に触れて、感じる部分を舌がなぞる。 ああ、声……。 出かけた嬌声をハルのキスが塞ぐ。 「ダメだ」 悪魔のようにハルが微笑む。 「声、出さないで」 ひくって息が詰まる。じりじりと焦がすような視線に焼かれて、オレはゆっくりと頷いた。 ベッドの上に押し倒された。 ハルの指がはいていたハーフのジーンズのボタンにかかると、思わず手を抑える。ふるふると首をふって、ずり上がって逃げようとしたけど、体重をかけられて、動けない。手が服の上から堅くなったオレに触れて撫であげる。息を詰めるオレに、ハルが嬉しそうな微笑を浮かべた。 「なな。このままじゃ苦しいだろ?俺にやらせて?」 「と、トイレでしてくる」 オレは涙をこぼしながら震える声で言った。いくらなんでも恥ずかしすぎるだろ。 「ダメ」 ハルが低い唸るような声で囁く。 やめてって言おうとした口をキスが塞ぐ。奥まで入ってきた舌が苦しくて息が切れた。頭がくらくらしてぐったりしていると、ハーフカットのジーンズがトランクスごと下げられて脚から引き抜かれた。 指じゃなく、温かい舌に舐め上げられて、身体が跳ねる。 なに? なにしてる? 完全にパニックを起こした頭をもたげると、ハルの茶色の髪がオレの脚の間にある。ハルの舌がちらりと見えて、くちゃりと音をたてながら、オレの欲望を口に含む。 中で絡め取るように舌が動いて、手が根本をこする。 唾液でぬれたオレをハルの唇が何度もすするような音をたてながら上下していく。 「ハル!きたな…っ」 その声にハルがむくりと身体を起こす。糸を引いた唾液を無造作に手で拭うと、めちゃくちゃ楽しいことをしているんだという様に微笑んだ。少しトロンとした金色に煌めく瞳は、ハルが完全に飛んじゃってるって言っている。 楽しそうに人差し指を唇にあてて、にっこりと笑う。 「────静かにしないと……聞こえちゃうよ?」 ゆっくりと見せつけるようにハルが唇を舌でなぞる。 ひくって喉がなって、涙がボロボロ出る。 きっともう、終わるまで離して貰えないんだ。 オレは震える手で口を抑えた。 「いい子だね? なな」 ハルの舌がいやらしい音をたてて、オレに絡みつく。 柔らかく吸われて、また舐め上げられた。くちゅっと出されたハルの唾液と先走りに濡れた先をハルのきれいな指先が割れ目にそって刺激する。 次から次へと出てくる液にハルが喉を鳴らして笑う。 「すご……エッチだよな?」 舌が割れ目をなめて、先に軽く歯が当たった。柔らかく噛まれてそのまま刺激されると身体が痙攣する。 「も、ダメ……は、なし」 ハルの頭を引っ張るけど、深く吸われただけだった。 カリカリに硬くなったオレをハルが追い詰めるように音をたてながら舐め続ける。唾液にまみれた根本をくちゅくちゅと音を立てながら刺激された。 オレは耐え切れなくなって、泣き声をあげながら、そのままハルの口の中に全部吐き出した。 オレはティッシュを取ろうとして、ハルの喉が動くのを見て固まった。 「の、のんだ?」 「うん」 真っ青になったオレの頬を涙が伝う。まだ裸だって気がついて、ノロノロとタオルケットの下に潜り込む。 「ごめ……オレ、が、ガマン出来なくて。き、きたないよな」 ちゃんとしゃべりたいのに、喉が嗚咽でいっぱいでうまくしゃべれない。 オレの言葉を聞いたハルの顔が青ざめる。 ハルはベッドを降りるとタオルケットに包まれたオレの顔を覗き込んだ。 「汚くなんかない。ガマンできなかったのは、俺がやだって言わせなかったからだろ?……ごめん。なながマジで可愛いから、理性とか吹っ飛んで……ホント、ごめん」 「り、理性が飛んでも、な、舐めたり。の、のむのは……だ、ダメなんじゃ」 ひくっと啜り上げながら言う。 「だから、俺はななフェチの変態なんだって。自覚はちゃんとあるよ」 「ななフェチ?」 「そう。ななが通ると振り返るし、いつもの席になながいて、勉強してると見てさ。かわいいなあって」 「見てたんだ?」 「毎日ね」 「いつから?」 「一年の一学期の期末の結果が貼り出された日。ななに声かけられて、その時から」 「オレが声をかけたの?」 「うん」 「……覚えてない」 「メガネしてなかったから、見えてなかったんじゃない?一位は誰ですかって聞かれた」 「そうか……残念だなあ」 「残念?」 「その時、オレもハルを見てたら、お互い一目惚れだったかもだろ?」 ハルの顔が赤くなる。 「はあ……」 ため息をついてうな垂れた。 「どうしたの?」 「めちゃくちゃかわいいこと言う」 「男相手に、かわいいとか違うだろ」 「それ以外思いつかないよ」 んあって恥ずかしがるオレにハルが微笑んだ。 誤魔化すようにタオルケットにくるまって、ボソっと呟く。 「オレ、眠いんだけど」 オレはタオルケットの上をぽんぽん叩く。 「一緒に寝て」 「中には入れてくんないの?」 タオルケットの上に横たわりながらハルが言う。 「服着てないし……生肌暑い」 「ウチ帰る?」 「ハル、母屋に帰るじゃん」 思わず出た拗ねて甘えるみたいな言葉に、ハルが声を立てて笑う。 「そっか……な、腕枕していい?」 「腕しびれない?」 「しびれても……したい」 オレは素直にハルの肩口に頭を乗せて言った。 「寝よ」 ハルがオレを引き寄せる。オレはハルに身体をぴったりくつけると目を閉じた。

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