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激動の木曜日(6)
「キス出来ないのに、そんなに泣くなよ」
ゆっくりと指先が腫れた唇をなぞる。ハルの唇がまぶたに触れて、涙をぬぐった。オレはぎこちなくハルの頭を引き寄せて、涙で濡れた声でささやいた。
「し、しよ?」
ハルがため息をついて、こつんとおでこをくっつける。
「舌、出して?」
オレがおずおずと舌の先をのぞかせると、ハルが舌を舐め上げた。
びくんと身体が震える。
「もっと」
大きく出した舌にハルの舌がくちと音をたてて絡みつく。ざらっとした感触に背筋がぞくっとして、小さな声がもれた。
「んっ」
ハルの唇が、首筋を這いまわって、耳元でささやく。
「痛くない?」
耳に息が当たると、びくんと身体が跳ねる。なんか、頭おかしくなりそうなくらい気持ちいい。
「な、なに?」
「唇」
ハルが言いながら、耳に舌を這わせると、まともに頭が働かなくなる。
「った…くな…い」
「なながキスして。昨日……気持ちよかっただろ?」
言われるままにぎこちなく舌でハルの口の中を探る。ハルがオレの舌を柔らかく吸いあげる。引き出された制服の裾から、ハルの手が身体に触れると、喘ぎ声が漏れて恥ずかしくなる。
真っ赤になった顔を見られたくなくて、オレはキスをやめるとハルの胸に額をつけた。
「や、やばいよね」
「何が?」
ハルが穏やかに聞く。
「あ、頭がさ。……おかしくなりそ。なんか……変な声出るし」
「すげえ可愛いけど」
「男が喘ぐとか、なんかさ……違うかなとか」
「そうかな?」
ハルがベストを脱ぐと、ネクタイを引き抜いて、Yシャツを裾から引き出した。片手で器用にボタンを外しながら、艶やかに微笑む。
少しずつ見えてくる、均整の取れたモデルみたいな身体。
「触って?」
笑いを含んだ声が誘う。
苦しくないように腕を伸ばして上に乗ってくる身体。オレがおずおずと身体の前に指を這わせると、ハルがくすくす笑う。
「くすぐったい」
むっとして、首に手を回して引き寄せる。いつもハルにされるみたいに背中に指を這わせる。軽く爪を立てると、ハルが耳元で短い息をはく。オレは嬉しくなって身体をハルにすり寄せると伸びあがって首にキスをした。
「ん……」
ハルの声が漏れると、ぞくっとする。掠れた声に煽られて、喉に小さいキスを続ける。
「いい感じ」
ハルはオレ耳元で囁くと、堪えきれないという様に喘いだ。
びくっとオレの身体が反応する。オレはヒップまで滑らせた手をそろそろとハルの欲望の中心に這わせた。
意図に気付いたハルがオレの手をつかんで、頭の横に縫い付ける。
「それは反則」
ハルはオレの手を持ち上げて、手のひらにキスをした。見透かされて真っ赤になったオレを見て、ミルクを舐めた猫のように笑う。
「どう?俺の喘いだ声。…………なんか違う?」
めちゃくちゃドキドキしてる。喉が干上がったみたいだ。声が出てこなくて、オレはただ艶やかに微笑むハルを見つめて首を振った。
「感じちゃった?」
オレは戸惑いながら、頷いた。
「俺も……ななの声でめちゃくちゃ感じるよ」
ハルが身を屈めてオレの耳に舌を入れる。
頭が真っ白になるような快感が身体を駆け巡る。声が出るのを抑えるとかそういうレベルじゃない。
オレは舌が動く度に喘いだ。
「や……あ…っ……だめ。っ…あ、あたま……お…っかしい」
軽く胸をなでられただけなのに、身体が激しく震える。
「なっ…に?どこ……触られても……すご」
粟立つ肌をなだめるようにハルの指が撫でる。大きな声が出て、恥ずかしさに口を抑えた。
「すっごく感じる?」
涙目で頷く。ハルは快感が切れないようにオレを撫でながら、掠れた声で囁いた。
「終ったら、ななは恥ずかしくてぐるぐるすると思うんだ。男に感じちゃったとか、大きな声出して乱れすぎとか、泣いちゃって情けないとか。きっと、いろいろ。
でもね。それは全部俺のせいだから。俺がそういう風にさせてるんだから。俺はななを誰にも渡したくないから、恥ずかしくて他の奴に見せられないようにしてる。俺は、ね、なながどんなに乱れても平気だし、すげえ嬉しい。
だから、自分のこと嫌いにならないで。嫌いになりそうになったら、そうさせた俺のせいにして」
オレは快感にもうろうとした頭でハルの甘い蜜のような言葉を飲み込む。
「わかる?」
ハルは鼻をオレの喉に擦りつけるとキスをした。軽く咬まれて声がもれる。オレはもう声を殺さなかった。
「……嫌い……なら…ない。じ…ぶん…も。は、ハルも」
ハルの目が煌めく。満足気な微笑みが口もとに広がった。
「いい子だ」
制服を脱がせるハルに素直に従った。ズボンを脱がせる手に腰を浮かせる。肩からハルのYシャツを落とすと、カチャってベルトを外したのウエストから手を滑り込ませる。裸のハルの身体が乗って来て、はっきりとわかる熱い欲望に息を飲んだ。
耳から始まった愛撫が胸から腹に移る。濡れた舌が何度も小さな乳首を撫でて、軽く吸い上げる。立ち上がった膨らみにハルが微笑む。どうしようもなく喘ぐおれの乳首を軽くなでながら、ハルの唇がおれの中心を下に降りて行った。
ハルが何をしようとしているかに鈍くなった頭が気付く。
「は、ハル……そ、それ……やだ」
「いいよ」
構わずに進もうとする頭を抱え込む。
「ハルが気持ち…よくな…いの、やだ」
「気持ちいいよ?」
「やだ」
オレは頑なに言う。
ハルが強くオレの肌を吸う。歯を立てられてびくっと身体が震えた。思わず手の力が緩んで、ハルが頭をあげる。自由になったハルが、上体を起こして微かに首を傾げながらオレを見降ろしている。
キスしようとして落ちて来た唇が直前で止まる。オレはハルの首に手を回すと、腫れた唇を押しつけた。ハルの唇が緩むと、舌を押し込んで甘い唾液を味わう。唇が離れると、ハルがオレの首筋に軽くキスすると囁いた。
「……っバイな。俺の方が頭おかしくなりそ……」
ハルの手が優しく、硬く張り詰めたオレを下から上に撫でる。
「ななも出来る?」
オレは息を吐きながらハルの欲望に指を絡ませた。自分のじゃない感触に微かに手が震えたけど、優しく上下させると、ハルが短い息を吐く。
温かい息が耳にかかって、オレは喘いだ。それに気づいたハルが、また耳を責めながらオレを握り締めて手を上下させる。オレの欲望は涙をだらだらと流していて、ハルの手を汚しているんだろう。いやらしい水音を立てた。
「なな、止まってる」
笑いを含んだ声がオレの脳をかき回す。オレはびくりと手をふるわせるとまた指を上下させた。でも、それは形だけで、快楽で指先には力が入っていなかった。くらくらする頭、たどたどしい声で囁く。
「オレ……も、だ……め」
その声にハルの手が追い詰めるように早くなった。こんな風に感じた事なんかないのに。
「ああっ!……どうしよ……め……っちゃ……気持ちい……」
「イっちゃえ?」
ハルがきつくオレを握り締める。痛みを覚えるほどの力にオレの欲望はカリカリに固くなった。身体がぶるぶると震えている。自分でした時とは全然違う強烈な快感。甲高い喘ぎ声は確かに自分のものだった。目の前にチカって星が飛んで視界がぼやける。
「は、ハル……はる!んっ、ああっ!」
ハルの笑う声がする。はっきりと見ることは出来なかったけど、昨日のような悪魔のような微笑を浮かべているんだとわかって背筋が泡立つ。
見られていることへの恥ずかしさと快楽。
ハルがくちゃくちゃと音をたてながら手の動きを速くすると、耐え切れずにオレは弾けた。とんでもない快感に悲鳴のような喘ぎ声が出る。白濁したものがハルの腹に飛び散って、オレの腹にしたたった。
ハルはおれの腹に飛び散ったものを撫でると、また笑った。
弱々しくハルを握り締める手をとられた。手のひらを開かされて、ゆっくりとオレの汚れた腹を撫でさせられる。
ハルはもう一度その手に自分自身を握らせると、上から更に自分で握り締めた。オレの吐き出した欲望にまみれたハルがますます硬くなって、ハル自身の先走りを先から吐き出す。ハルはピッチをあげながら、なす術もなく震えるオレにキスをした。
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