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激動の木曜日(7)

「ね? 呼んで? さっきみたいに俺のこと。すっごい気持ちよさそうだった」 目を開けてハルを見る。欲望に煙った昏い瞳がオレを見下ろしている。 「はる?」 叫びすぎて掠れた声で名前を呼ぶと、ハルの身体がざわっと震える。 「はる、はる……すきだよ?」 ハルの口から激しい息が漏れて、もう開けていられないというように濃くなった榛色の瞳が閉じられる。オレの精液とハルの先走りの混じった膨らみきった欲望がびくんと震える。 「なな……っ」 掠れた声がオレを呼んだ。 「はる」 もう一度オレがハルを呼ぶと、びくびくと震えながらハルが液をオレの腹の上にぶちまけた。こする度に脈打つハルが欲望を吐き出していく。すべて吐き出すとハルは荒い息を吐きながら、オレの首筋に顔を埋めた。 「やっば……気持ちよすぎ」 胸まで飛んだものと、完全に放心しているオレを見てハルが苦笑いする。 「なな。大好き。タオル持ってくるからじっとしてて?」 綺麗な体を晒してハルがベッドを降りてバスルームの方へ歩いて行く。オレはため息をつきながら、そんなハルから目が離せなかった。ふにゃふにゃなオレをハルは甲斐甲斐しく世話をした。濡れた温かいタオルでざっと拭ってシャワーで体を洗われる。 「大丈夫か?」 バスローブを着せられて、別のベッドルームの布団に寝かされる。 「あっちヤバイから」 ころりと横になったオレは顔を赤らめた。ベッドの端に座ったハルがオレの濡れた頭を撫でる。 「俺、母屋に……」 帰るの? 置いてくの? オレは身体を起こして、取りすがるようにハルを見上げた。 やだ。 言いたいのに言葉が出ない。きゅうって喉が鳴って、苦しさに胸を押さえた。 「なな、待って。違うから。俺、着替えとか取りに行くだけ」 安心して、ボロっと涙が出る。 「うあっ……クソっ……俺、バカだな」 ハルは自分のバスローブでオレの涙をこすった。 「泣くなよ」 キスしようとして、切れた唇を思い出して、また悪態をつく。 「あのさ? 俺が、さ。こんなななを置いて、行けるわけがないだろ? やったらバイバイとか、出来ないよ」 っくんと涙を飲み込んでオレは頷いた。 「こっち、他の人に来て欲しくないかなと思って。着替えして、なんか食い物持って来るから」 頷くオレを見てハルはため息をつく。 「ぐるぐるしてる?」 オレは首を振った。 「不安になってる?」 頷く。 「どうして?」 首を振る。 「わかんないのか」 こくこくと頷く。 「いきなりだもんな。ちょっと……怖かったんだろ?」 頷く。はあとハルがため息をついた。 「慣れてないのわかってるのに、我慢出来なかった。あのね、俺もね……怖いよ。怖いくらい好きだよ」 ハルはキスをしようとして、顔をしかめた。オレは無言でハルの首に腕を絡めてキスをした。 ** ** ** いつの間にか寝ていたらしい。 途中、軽くゆすぶられて、声が聞こえる。 「飯、出来たみたいだから、取りにいくから」 うとうとと頷くと、そのまま、また寝てしまう。 ふっと目が醒めて、起き上がる。手探りでメガネをサイドボードから拾ってかけた。バスローブの前がはだけている。 着替えをしようとして、廊下に出てリュックを拾おうとしたら、なくなっていた。そのまま廊下を進んで隣の部屋を覗いた。 リュックがクロゼットの前に置いてある。隣には見たことのない大きめのスポーツバック ハルのかな。 着替えを取り出して、バスローブを脱いでのろのろと身につける。 ベッドを見るとそこはまだ乱れたままになっていて、自分達のしたことを思い出して顔が赤らむ。 ここ、お手伝いさんとかが来るんだよな。 バレたらどうなるんだろ? 不安になって、メガネを外して目をこする。 「なな?」 ハルが部屋に入って来る。 メガネを持ったままぼんやり立っているオレを見て、心配そうな顔で近づいて来た。 「どした?」 オレは答えられずに首を振った。この不安をどう説明すればいいんだろう。ハルがゆっくりと手を差し出す。オレは黙ったまま手をその手のひらに載せた。引かれるままにリビングへの階段を下りる。 キッチン部分のイスに促されるままに座った。 テーブルには重箱が拡げられていて、いろんな種類の巻き寿司や綺麗に飾り付けられたおにぎり、唐揚げやサラダが入っている。隣のイスに座ったハルが、テーブルに肘をついてオレをじっと見る。 「あのね、」 びくと震えるとハルの榛色の瞳を見返した。なんだか喉の奥に塊がつまっているような気がした。不安で泣き出してしまいそうだ。 「俺、こっちにいることにするから」 「え?」 「夏休みはこっちで自炊しながら合宿みたいにするって言って来た。掃除とか洗濯も自分達でするって。俺、飯は普通に作れるし。洗濯や掃除は……ななが教えて」 ぱちんと何かがはじけるように不安の塊が喉の奥から消えた。 オレは、ただ、頷いた。 ふうってため息をついて、ハルがオレに箸を渡す。 「反応薄いな」 「すっごくおいしそう」 「そっちじゃなくて!」 「……嬉しいよ?」 囁いて本当にそうだと気付く。 オレが不安に思うことを、ハルが先に気づいてくれた事が嬉しい。 オレは微笑んだ。 ハルはオレの顔を惚けたように見ている。 オレは海苔巻きをつかむと、ちょいちょいと醤油をつけて、ハルに差し出した。 「ん?」 オレが言いながら差し出すと、ハルは海苔巻きに噛みついた。もぐもぐ噛むと飲み込んでため息をつく。 「なんなんだよ、急に微笑むとか。半端ない破壊力……」 オレはくすくす笑った。ハルはブツブツいいながら、海苔巻きをつかむと、オレに差し出した。 「あーん」 じわじわと赤くなるオレを見て、意地悪に笑う。 「口移しとかのがいい?」 オレが慌てて食べると、 「米粒ついてる」 と、唇の横にキスされた。びくっとしてハルをまじまじと見る。 「おいしい?」 唇が触れるような距離で誘うように微笑むハル。 オレはまた口がきけなくなって、音もなく頷いた。 「ずっと一緒にいていい?」 オレが頷くと優しい唇が頬に触れた。

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