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再びの金曜日(2)

教室に着くと、オレのクラスにハルが吸い込まれて行った。あれ?って思いながら教室を覗くと、ハルがまっすぐに高橋に歩みよって声をかけた。 「おはよう。高橋。昨日は……電話出来なくてごめんな」 にこやかにハルが言う。 高橋は席に座ったまま、目をあげると、オレに視線を走らせた。 「いや。気にしなくていいよ。上手く……切り抜けたわけ?」 「お陰様で」 二人はバチッて感じで睨み合った。けど、口元はあくまでにこやかで、口調も穏やかだ。 ハルが口を開いた。 「悪いけど、そもそもあれはお前の物じゃなかっただろ?俺は盗ったんじゃなく、元々自分のものだったのを取り返しただけだ」 「えらい自信だな────王様」 高橋がぎりっと口元を引き締めて、ハルを睨む。 ハルはにっこりと微笑み返した。 「まあ、お前には悪かったと思ってる。だから、お前は友達でいいし、その他のことも認めるよ。  昨日の事も、油断してた俺が悪いんだし、隙があったら……俺もそこを突いただろうから、おあいこって事で許すよ。  ────番犬」 「ガチガチの鎧にたっぷり荷物背負ってるのに、守れるとか甘くね?それじゃ身動き取れないだろ?結局、どっかの坊さんに騙されて、姫様は火あぶりなんてことになるんじゃね~の?」 高橋が世間話でもする様に、穏やかに話をする。 「その時はさらってくつもりなんだろう?」 口元の笑みはそのまま、ハルの瞳が怒気を含む。 「当然?」 楽しそうに高橋が笑う。ハルが嬉しそうに微笑み返して言った。 「お前が大嫌いなんだけど」 「偶然だな。おれもだよ」 二人はにっこりと笑いあった。意味がいまいちよく解らないんだけど、たぶん、オレの事を話してるんだよな? 「なな?」 ハルが振り返ってオレを呼ぶ。 オレが近づくと、肩をつかんで耳元で囁く。 「高橋は見たまんまの犬じゃなくて、悪い狼だから気をつけて」 え? と見上げたオレの頬を軽く握った手の甲で素早く撫でる。 煌めく瞳に見惚れて頬が火照るのを感じた。 「またね」 そして、高橋に目を移して言う。 「ちゃんと見張ってろよ。番犬」 「黙れ。王様」 ハルはそのまま出て行った。 「い、今のなに?」 オレはリュックを机に置くと、高橋に聞いた。 「宣戦布告? まあ、友達でいていいってお許し出たから、いいんじゃね?」 高橋はオレの長袖のYシャツをつつく。手首にしっかりついたあざを隠す為だ。 「ごめん」 「な、なに?」 「壊れたらいいとは思ったけど、乱暴なことされるかもとか、そこまでは思いつかなかった」 「さ、されてない」 シャツに包まれた手首をぎゅっと握った。 ハルをかばうオレに、高橋は寂しげに微笑む。 「約束、忘れるなよ?」 高橋はそう言うと前を見て、机に寝そべった。

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