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第2話
「瑛さま、朝ですよ」
「…んん……」
翌朝。
何事もなかったかのような顔で、七世は瑛の布団を剥がした。
「……さみぃ…」
「なら起きてください。朝食の準備は出来ておりますから」
瑛は “昨日はあんなに喜がってたくせに”と、内心思いながら、渋々体を起こす。
カーテンを開け、ゴミ箱の中身を捨て…。頻りに動き回る男をぼんやりと眺めながら、ふと口を開いた。
「なぁ…七世は眠くねぇの?」
「…眠いですよ。誰かさんのお陰で」
「ははっ。ごめん」
瑛はそれだけ言い残し、バツが悪そうに 寝室を出ていく。
「はぁ…」
一方、部屋に残された使用人は、僅かに汚れたシーツに視線を落とし、ため息を零した。
瑛と“そういうこと”をする際は、極力汚さないようにしているのだが、やはり 少なからず“跡”は残ってしまう。
シーツは毎日取り替えるので、汚れていようがいまいが洗濯物の量は変わらないのだが、手間は増える。
もちろん、例の“坊ちゃん”は汚れも、七世の尻も、心配したことは一度もない。
…これは教育し直させるべきなのだろう。
しかし、事に及べば “教育”をすることもままならない。快楽に流されやすい自分の体を どうにかしたいとは思うものの、打開策は見つかりそうもなかった。
シーツと枕カバーを抱え 寝室を出ると、下から瑛の声が聞こえてくる。
「なぁ、七世も一緒に食べよう」
「私は先に頂きましたので…」
「…じゃあ、寂しいから 話くらいしてよ」
怖いのは、こういうセリフが自然と言えてしまうところだ。まぁ、その誘いに乗ってしまう自分もどうかと思うのだが。
「仕方ありませんね…」
白い布を洗濯カゴに入れ、ダイニングへと向かう。
一人で食事をするには些か広すぎるテーブル。
テレビがあるわけでもないので、そこは 静寂に包まれていた。
瑛の両親は仕事に出ており、数週間帰ってこない日もあれば、瑛が学校から帰ってくる前に帰宅する日もある。
家を空ける日が多いため、七世を雇ったのだろうが、血の繋がりもない赤の他人が、親からの愛情の代わりになるものを 与えられるはずもない。
「…ありがと」
そのため、七世は何もかも捧げるつもりで、東條家に雇われたのだった。
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