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第3話
「本日は何時にお迎えに上がりましょうか?」
「んー…いつも通りでいいよ」
「瑛さま。たまにはご友人と お出掛けになられても構わないんですよ?」
「…友人、ね」
それきり瑛は口を噤み、車内は沈黙に包まれた。
何か気に障るようなことを言っただろうか。
確かに、最近はあまり“友人”の話を聞かない。
「何か、ございましたか?」
「…別に」
素っ気ないその態度と、つまらなそうな表情は、まるで反抗期の子どものようだ。
こういう時は無理に追求せずに放っておくべきなのだろうが、それでも心配になる。
瑛は、決して両親には本音を漏らさない。それに、どういう訳か、七世の方が 瑛の気持ちを聞くことは多い。
それでも、周りに上手く甘えられずにいる瑛に、いつか限界が来るのではないかと、七世は案じていた。
「…いってきます」
「いってらっしゃいませ」
裏門に面した大通りの道端に車を停め、出ていく男の姿を見送る。
校内に入るまで見届けるのが、自分のポリシーだ。
七世が東條家に雇われたのは、瑛がまだ五歳の時のことだった。当時 お金に困っていたこともあり、住み込みで働けて人並み以上の給料を貰えるこの仕事を始めたのだが、かれこれ十二年も続いている。
元々 ヒモのような生活を送っていた七世にとって、家事全般は大したことではなかった。ただ一つ苦労したことといえば、勉強だ。高校を卒業するまでは、真面目に生きてきたつもりだったが、人間の記憶というのは徐々に消えていってしまうもので、瑛が中学校に上がってからは、教える前に予習をしておくようになった。
最近では 瑛も、七世に教えてもらうことに申し訳なさを感じているのか、あまり質問はしない。しかし、七世は そのことに寂しさを感じていたりもするのだ。
これじゃまるで親のようだな、と自嘲の笑みを浮かべ、アクセルを踏んだ。
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