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第4話

“友達”の定義とは、一体何なのだろうか。 ふとそう思うことが、瑛には多々あった。 「瑛、おはよ」 「おはよう」 教室で 挨拶を交わす人はいるが、“友達”ではないような気がする。休み時間に声をかけてくれるクラスメイトも、瑛にとってはただの“クラスメイト”だった。 時折 自分の親が、子供に関心を持たない人で良かったと思うことがある。そのおかげで 勉強ばかりの進学校には通わずに済んだのだ。 そういう面では、愛の欠片もないこの生活も 悪くない。 「…なぁ、瑛。英語の課題見せてくんね?」 以前、何度か 頼みを聞き入れていたためだろうか。随分と思い上がったものだ。 「あぁ…ごめん。まだやってないんだよね」 …まぁ、もちろんやってあるんだけど。 どうせ卒業したら顔を合わせることもない相手だ。 たとえ嫌われていたとしても構わない。 好きな相手には嫌われたくはないが、誰かを好きになったことのない瑛にとって 他人からどう思われていようと関係がなかった。 ただ一人、七世を除いては──。 ** 「なあ、お前また嘘ついてただろ」 昼休みの学食で隣に座ってきた男は、今学期から同じクラスになった久遠(クドウ)だ。 なぜこんなにも絡まれるのかは、俺にもよくわからない。 「何のこと?」 「朝のさ~、英語の課題!結局俺が貸す羽目になったじゃねぇか」 「嫌なら貸さなきゃいいだろ」 普段誰にでもいい顔をするクラスの中心人物のようなこの男が「これで先生に怒られたらアイツまじ許さねー」などと毒づいていることは、たぶん誰も知らないのだろう。 「てかさ、なんで毎日隣に来るわけ?」 「え、逆にだめなの?」 「質問に質問で返すな」 久遠のことは別に嫌いというわけではない。 どんな人でも裏と表の顔は持っているものだし、それは俺自身も例外ではない。 それに、適度に距離感を保ってくれていることが、何よりも有難かった。 日替わりメニューとはいえ食べ飽きたカレーライスをスプーンですくいながら、通知を知らせるスマートフォンの画面に目を落とす。 毎日毎日、飽きもせず電話をかけてくるのは俺の父親だ。 「出なくていーの?」 「話すことなんてないから」 三度目のバイブレーションが鳴る前に画面をスワイプし、電話を切る。 正直、俺にはの家族というものがよくわからない。 小学校に上がる前から家には七世と二人でいることが多かったし、授業参観や運動会にも両親の姿はなく、代わりに血のつながりもない男が立っていた。 だけど、それでも良かった。 「そーなんだ」 隣の男はあまりにも不自然な俺の家庭を気にも留めず、菓子パンを頬張っている。 「あ、てか今度一緒に飯食いに行かねー?」 「急になに?」 「隣のクラスの子がさ、暎のこと気になってるらしくてー」 「悪いけどそういうの興味ないから」 「…お前、本当に健全な男子高校生なのか?」 __健全というより、あまりにも不健全な男子高校生だな。

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