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第3話

今16時過ぎだから、そろそろ混み出す時間だな… そう思いながら、皿洗いに励む。 ここは、佐山先輩の叔父さんが経営している小さなカフェで、俺は2年ぐらい前から働き始めた。 きっかけは、その当時、長く悩まされていた睡眠不足と極度の空腹が重なり倒れそうになっていた俺を佐山先輩が助けてくれたことだった。 それからというもの、佐山先輩は定期的にカフェでご馳走してくれて、俺はその代わりに働くことになった。 1年後、新がやってきた。 その容姿と明るい性格でどんどん人を魅了し、前まで年配の方ばかりだったのに、いつのまにか今ぐらいの時間帯には中高生が多く集っている。 ほら、今だって—— 「あの、新さんって大学生ですか?」 「うん、大学生だよ」 「大学ってどこですかー?」 「うーん、それは教えられないかなー」 なんて言いながら女の子たちに囲まれている。 …別に嫉妬してるわけじゃないけど。 「新さんって、彼女いますかっ!?」 一人の女の子が緊張し気味に尋ねる と同時にドクッと心臓が全身に鳴り響く。 俺に訊かれたわけじゃなくても、いつもこの手の話題には思わず身構えてしまう 「フフッ、……うん、いるよ。」 「あー、やっぱりかぁー…」 「だからもうお話は終わり。嫉妬するかもしれないから」 そう言って悪戯に笑った後、ふわりと俺の方を向き、舌を出す 「…うっ、さっきの新さんかっこよすぎ…。  めっちゃ彼女さん愛されてんじゃん……」 ーーーーー 「フハッ、ゆーひさん顔真っ赤だよ?」 オーダーを聞いてきた新がそう言って顔を覗き込む。 「う……、俺でも分かってる…。  ていうか、俺の方向いたらダメじゃん…」 「ゆーひさんの顔見たくなって」 そう言われると何も言えなくなっちゃうから困る 「ゆーひさん、嫉妬した?」 少年のような雰囲気で、俺のことを試してるみたいに訊く。 確かに嫉妬心が無い訳ではないけど、でもそれよりも… 「…なんか、俺が恋人で本当に良いのかなあって……」 そう言った瞬間、すぐに後悔する 新は、なぜか自分のことを下げて言うことをものすごく嫌うのだ。 でも、さっき口から出たのも紛れもなく本心で、新にはああやって囲まれている方が似合っている気がする。 「…ゆーひさん。それは言わない約束じゃん。」 「ご、ごめん…」 「…別に謝らなくて良いよ。でも、…俺が望んだことなのにそうやって言われるのは嫌だ。」 言われて気付く。確かにあんな風に言うのは新の気持ちを踏み躙っているようで失礼かもしれない。 でも、それが俺が隣に居てもいいと思えるような安心材料にはならないけど。 「…それにさ、———」 そこで、新がオーダーの聞き取りに呼ばれる。 ごめん、行ってくる、そう言って新は立ち去って行った。 話の続きは気になるけど、それよりもこの空気感を抜けれたことにほっと肩の荷が降りる。 「ハァ……」 どうやったらこの考え方を止めれるのだろか、答えは分かっていながらも、知らないフリをした。 ーーーーー 悪いタイミングで呼ばれてしまう。 結陽さんのしょんぼりとした顔を見て、胸を痛めるも俺の言っていることは間違ってない、そう信じる。 それにさ、——— さっき言おうとしたことが頭の中で再生される。 "結陽さんは自分の魅力を分かってなさ過ぎる" なんで自分を下げるようなことを言うのか、俺には分からない。 いや、知りたくても拒まれてしまう、という言い方のほうが近いかもしれないけど。 結陽さんは厨房にいるから、大抵お客さんのいるところから中を覗くことはできないけど、あの角の席だけ中を窺うことができる。 その席では結陽さんの様子も見れるわけで、あまり知られているわけではないが、座る人がある程度固定されているような気がする。 それは、男性も然り。 ……—あぁ、ほら。 あいつらもそうだ。 無意識に下唇を噛みながら、向かう。 「…ハァ、やっぱりあの厨房の人綺麗すぎる」 「マジこの席しか見えないからさあ。でもこの席ちょっと離れてるから見にくいんだよなぁ」 「あの人もホールに出てきてくれたら良いのに…」 「それな。ていうかさ、あの人の——」 「ご注文はお決まりですか?」  話している女子高生2人に影を落とす。 なるべく笑顔で言ったつもりだったけど、低く淀んだ声に一瞬2人の言葉が詰まる。 「ッア、っと、…私はこのチョコパフェで」 「あ、じゃあ私は…いちごタルトで」 「はい、かしこまりました。」 次は平常通り返事をした。 職場に私情を挟んではいけない、そのことはよく解っているつもりだが、結陽さんが関わると抑えられなくなってしまう。 それが男だったら尚更な訳で。 いっそのことあの席を無くしてくれたら良いのに、そう切に願う。

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