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第3-1話愛で捕らえる

 私が命じたままに用意された部屋は、王宮で見慣れた絢爛豪華で広々としたものに比べると、とてもこじんまりとして質素なものだった。  建物自体は真新しいが、そこにあるのは古びた長椅子に机。せめてもの飾りをと生けられたであろう花瓶の薔薇が、なんとも健気に見えてくる。  私は先に彼を座らせてから隣へ腰を下ろす。  体が触れ合うほどの距離に驚いたのか、彼が驚きで丸くなった目で私を見上げた。 「近くてすみません。外で誰が聞いているかも分かりませんので、貴方が話したことを咎められぬよう、小さな声でも聞き取れる距離に来させてもらいました」  顔を近づけ、私は彼の口元に耳を向ける。 「さて、教えてくれますか? 貴方がここで何を燻っているのかを……」  しばらく彼の息遣いだけが聞こえる。緊張しているのだろう。荒くて力んだ息が何度も私の耳をくすぐってこそばゆい。  すぅ、と。意を決したように彼が大きく息を引いた。 「オレは……物心がついた時から、何もありませんでした。お金はもちろん、家も、親も、ここにいていいっていう場所すらないんです。今も、これからも……」 「この孤児院は、貴方がいてもいい場所とは思えないのですか?」

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