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第3-2話愛で捕らえる

「大きくなったら出て行くことになりますよね? ここを出る時は何も残らない……ずっと何もないまま、生きていくなんて……と思ってたんです。それで……」  なるほど。この孤児院で自立に向けた勉学を施してるが、その後の働き口の提供や寝所の確保までは手が回っていない。  優秀な者がいれば孤児院の者から教えてもらい、城へ召し上げる予定であるというのは暗黙の了解。その選定から外れた者が自立し、安心して生きられる場所を形にするのが私たち王宮の人間の仕事だ。  不安に押しつぶされそうな顔で声を震わす彼の頭を、私はそっと優しく撫でた。 「教えてくれてありがとうございます。まだ国の孤児支援は始まったばかり。そういった声を頂けるのは本当に助かります。早急に手を打ち、孤児の皆が安心して過ごせるように努力しましょう」  視線を下に向けていた彼の目が、私だけを捕らえる。  驚きと期待に瞳が輝いている――だが、すぐに憂いで曇ってしまう。 「まだ他にも心配事が? せっかくの機会ですから、全部教えてくれませんか?」 「……オレたちが一番欲しいものは、やっぱりもらえないんだなあ、って……」 「一番欲しいもの?」 「愛が欲しい、です……親がいたら当たり前にもらえるそれを、どうすれば手に入るのか……もらったことがないから、分からないんです」

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