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第3-4話愛で捕らえる
「今、年はいくつですか?」
「え、えっと、十三になりました」
「貴方には、私が特別の居場所と愛を用意しましょう。だから何も憂うことはありません。私のために孤児院で学び、力をつけなさい。早く身に着けて下されば、早急に貴方を私の元へ呼び寄せることができますから」
「……なぜ、オレだけに?」
「貴方が欲しい。それだけです」
民が望む優しき宰相の顔を保ちながら、私は彼の目を覗き込み、少しだけ想いのかけらを視線に乗せる。
何も知らない彼の心を奪うには、それだけで十分だった。
幼き瞳が甘く溶け、私を熱く見返してくる。
声を出したくても思うようにならず、コクリと小さく頷くのが精いっぱいな彼が、愛おしくてたまらなかった。
こうして私は、幼い彼の人生を奪った。
私と言葉を交わした以降、彼の成長は文武ともに著しかった。
それだけ彼も私を欲し、一刻も早くともに生きたいと望んでいたのだろう。
なんと健気で、憐れで、愛おしい存在だ。
ようやく目の前に現れた縋れるものへ、必死にしがみつき、足掻きたがっている。
私が欲するのは、愛しき王と瓜二つの顔と体。
もしそうだと知った時、彼は私を憎むだろうか?
政の中枢で王の望みを叶えるため、あらゆる手を尽くしてきた私の心は、疲弊し、感覚も鈍っていた。
些細なことで傷ついていては、権力にしがみついて蹴落とし合う人の浅ましさや私へぶつけてくる妬みに心が保たない。だから余程のことでなければ何も感じぬよう、いつの間にか心が学んでしまった。
そんな私でも、彼には心が動いた。
私に囚われて可哀想に……という、ほのかな罪悪感が――。
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