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第5-2話まだ彼が幼いからこそ

 私が先に立ち上がって促せば、戸惑いながら彼も立ち上がる。  こんなこと、いつもならばやりはしない。  主と下僕。立場の線引きをしっかりせねば、彼らは勘違いして私の心へ安易に踏み込もうとしてくる。  自分は特別。そう勘違いした者の振る舞いは、私にとって不快でしかなかったから。  けれど彼は他の者とは違う。  私が心から欲する容姿を持っていることに加え、まだ幼い。  まだ先王が存命していた幼き頃、遊び相手として私が遣わされ、多くの時をともにしていた。  ただ純粋に好意を抱き、無邪気にぶつけ合えた穢れのない日々。  あの日の思い出が私の中でよみがえり、昔を懐かしんで心が当時の距離感を望んでしまう。  案内をするならば前を歩くべきなのだが、年甲斐もなく子供じみた欲が私の感覚を狂わせる。  彼の手をそっと握り、並び歩いて屋敷を案内する。  この様子を私を常に陰で守っている護衛たちも、私に仕えている召使いたちも見ている気配はあった。  きっと彼らはすでに理解しただろう。この子が新しい情夫なのだと――私の情夫となってきた者たちと、顔立ちは似ているのだから。  屋敷内で唯一何も知らない幼き彼は、私の特別扱いに顔を赤くし、夢見心地な蕩けた目になりながら、私の屋敷を見知っていった。

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