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第6-2話顔合わせ

「エケミル様、見たところ彼はまだ成人前……夜の務めはいかがなさいますか?」  声を潜めながら長が私に尋ねてくる。  すべての事情を知りながら、少しでも私の望みに沿おうとしてくれる。長の忠誠心に感謝を覚えつつ、私は密やかに答える。 「しばらくは何も……訓練を受けるので精いっぱいでしょうから。それに――」  横目で幼い彼が護衛たちに構われている姿を見て、私は小さく笑う。 「――たまには時間をかけるのも良いかと。ゆっくりと楽しませてもらいますよ」 「分かりました。では、そのように……憂いなきよう、惜しみなく教え込みましょう」  宰相の肩書きを背負うには齢三十という私の年は若く、妬む者も多い。密かに亡き者にしようと手を回してくる者もいる。  だからこうして私に忠実な護衛を手元に置き、身を守らせている。  王が望む国を作り上げるには、幼き日から王が描く夢を聞かされ、ともに学び、育ってきた私でなければ。  殺される訳にはいかない。王の夢を叶えるまでは。  私が突き進む茨の道へ、何も知らぬ幼き彼はともに突き進まなければならない。  自ら望んで私を選んだのだ。逃がしはしない。だが死なせもしない。  彼には強くなってもらわなければ。  その王の宿した身を傷つけ、命を落とすなど、私が許さない。  長は私の想いを汲み取ってくれた。だから快く私は微笑む。 「頼みましたよ。死なない程度に、きっちりと扱いて下さい」 「はい。言われずともそのつもりで」  似たような笑みを長が返してくれる。微塵も容赦しないだろう。頼もしいことだ。  互いに視線を合わせて意志を通わせた後、私はゆっくりと幼き彼を見る。  これから訪れるであろう過酷な日々を知らぬ彼の希望に満ちた顔は、いったいどれだけ続くだろうか? と思わず人の悪い笑みが私から零れた。

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