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第7-3話愛しき王
財政、軍事、有力貴族たちの動向――そして国の慈善事業のことを報告している最中、陛下が玉座からわずかに身を乗り出した。
「エケミル、孤児院の件なのだが、前に話していた孤児へ教育を施すための手筈は進んでいるのか?」
王立の孤児院は陛下が王となられてから進めてきたもの。ようやく形になって動き出したところ。
即位する前に先王様から『戦場の空気を直に知ってこい』と言われ、向かわれた戦場近くの町で憐れな孤児たちの姿を目にしたことが、孤児院設立を望むきっかけだったと聞いている。
戦いの残酷さも、気を抜けば攻め込まれて亡国の憂き目に遭う恐ろしさも、陛下はこの時に学ばれた。だから安易に他国から奪うことより、自国を豊かにする道を選ばれた。
新しいことというのは既存のやり方に慣れ切った者には、なかなか受け入れてもらえない。
孤児に教育を施し、優秀な者は城で登用し、採用されなかった者でもその土地に足をつけて生活の基盤を自力で作れるならば、国の発展に繋がる。そんな有益な慈善事業すら渋る者がいるのだから、我が身の豊かさしか考えられぬ一部の有力貴族には頭が痛い。
心の中で呆れの息をついてから、私は陛下へ小さく頷く。
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