20 / 106
第7-4話愛しき王
「はい、優秀な武官、文官に声をかけ、幾人からは良い返事を頂きました。それと、しばらく大きな戦いがないと暇を持て余していたディルワム将軍にも打診致しました」
「ディルワムに? あの血の気の多い戦好きに、孤児たちへ武を教えることができるのか?」
「意外と教え上手なのですよ、彼は……ただ自身だけが強いだけでは、大軍を率いて勝利を重ねることは難しいもの。良き部下、良き兵を育てる才があるからこそです。あと、彼は自分と対等に戦える猛者を求めておりますので、自ら素質あるものを見出し、育ててみてはどうかと伝えておきました」
「ははっ、それは良い考えだ。ディルワムの返事は?」
「考えておく、と保留にされましたが……私の提案に興味を示しておりましたので、恐らく良い返事をもらえるでしょう」
別れ際に『お前の思い通りに動くというのは面白くないがな』と言われてしまったが、陛下の耳に入れる必要はない。短気なようで思慮深い男だ。一度は自ら出向いて内情を知り、しばらく経った後により適切な部下を寄越してくれるだろう。
ただ私から話をしておいただけ。大したことはしていない。
それでも陛下は目尻にシワを作りながら「さすがだな」と笑われた。
「細やかに動いてくれて、本当に助かっている。ありがとう……エケミルは我が国の宝だ」
即位しても変わらない陛下の真っすぐな人柄に、私の胸が熱くなる。
そして同時に陛下を裏切っているかのような罪悪感が、胸の奥底でチクチクと痛みを生む。
もし私の本心を知った時、同じことを言ってもらえるのだろうか。
ずっと陛下に劣情を抱えたまま、報われぬ想いを少しでも昇華するために国へ尽くしているなど……。
生涯、貴方にだけは見せられぬ顔を隠したまま、私は「畏れ多い言葉です」と陛下へ跪いた。
ともだちにシェアしよう!