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第9-1話夜の語らい

「し、失礼、します……っ。入っても、よろしいでしょうか?」  私が湯浴みを終えて寝台でくつろぎながら読書していると、扉の向こうから幼い彼の上ずった声が聞こえてきた。 「どうぞ。こちらへ来て下さい」  あまりに初々しい反応に笑いを堪えながら告げると、彼がぎこちなく扉を開き、部屋へ入ってくる。  読んでいた本を閉じて枕元へ置き、私は顔を上げて正面を見る。  着慣れぬ絹の寝間着が落ち着かないのか、彼はもじもじとしながら扉の前に立っていた。  改めて彼を見ると、初めて会った頃よりも背が伸び、私の身長に近づきつつある。手足はまだ細く、体の厚みも心もとないが、屋敷に来てこれからの成長は著しいだろう。  力をつけてすぐに大人へと変わる。今の貴重な幼く青い姿を目に焼き付けながら、私は彼を手招いた。 「そう固くならず、私の隣へ……」 「は、はい……っ」  控えめの声で返事をすると、彼は手足を同時に出しながら歩み寄ってくる。ガチ、ガチ、と一歩動いては止まり、体を硬直させる彼の様子は、私が今まで生きてきた中で一番おかしく思えてしまった。  ようやく寝台までやってきた彼は、上には乗らず、私の傍に立って見つめてくる。  燭台の明かりに照らされた彼の顔が赤いことに気づき、ここまで緊張する理由を察してしまう。

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