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第11-3話※成人を迎えて

 気心知れた者同士が見せる素の顔。  俺だけに見せる顔とはまた少し違う、対等で信頼に溢れた親しげな顔。  時間をかけて築き上げた、当人たちだけの歴史が垣間見えた。 「……っ」  気づいてしまった瞬間、俺は思わず息を引き、殺していた気配の抑えを緩めてしまう。  あくまで俺がエケミル様から受け取っていたのは、本来渡したい相手へ渡せぬまま溢れてしまったもの。  親愛、友情、尊敬、同志――エケミル様は見せても差支えのないものは陛下にすべて晒し、直接心を送り続けていたのだ。  俺だけに見せてくれる心など、あまりに小さくて限られたもの。てっきり特別なのだから、陛下よりも多くエケミル様に心を見せてもらっていると勘違いしていた。  急に足下から感覚が消え、鼓動が速まり、胸に痛みを覚える。  そして強い衝動が俺の中に生まれる。  俺は陛下に決して敵わない。だが、陛下が絶対に知ることのないエケミル様を、俺はどこまでも知ることができる。  どれだけ華やかに飾られた婦人ですら霞めてしまう容姿を持ち、宰相という替えの利かない国の要人であるエケミル様は、この国の至宝。  奪いたい。  己の名すら仮のままな、何も持たぬ俺が――。  俺の中で生まれた欲が、陛下へ抱いてしまった羨望を焼き尽くしていった。

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