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第16-1話王の不調

 彼女の背を見つめながら、私は手を握り込む。  いつの間にか手汗が吹き出し、その冷たさが胸の奥にまで届く。  昨日の別れ際まで、陛下はいつも通りの笑顔を浮かべて私と談笑してくれた。  不調の気配はまったくなかった――まさか毒を盛られた?  ……原因が分からない以上、その線も調べておこう。  近くの柱に視線を向けて目配せすれば、かすかに人が動く気配がした。  おそらく護衛の長だろう。彼は察しがいい。私が指示を出す前に動いてくれた。  陛下の元へ今すぐ駆けつけたい気持ちを抑え、私は執務室へ向かう。  我ながら恐ろしいほどに淡々と執務をこなす。  心はひどくそわついていながら、頭は冷静に回り、手は決まりきった文字を勝手に書き綴っていく。  どれだけ仕事を進めたのか、時間が経ったのか、感覚がまるで分からない。  ただひたすら机に向かい、これから必要が出てくるであろう執務をこなし続けていると――。 「……エケミル様」  低い声がして顔を上げれば、陛下と同じ顔の彼が、頭に深々と被る黒衣の下から沈痛な面持ちで私を見つめていた。 「本来ならばこの場で姿を現し、エケミル様に声をかけるなど許されぬことですが……見ていられなくて……」  頭では彼だと分かっているのに、思わず口が動いていた。 「……陛、下……」

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