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第16-2話王の不調

 ずっと握り続けた羽根の硬筆を机に置き、私は彼へ手を伸ばしかける。  腕が伸び切るよりも先に彼が駆け寄り、不安で溺れそうになっている私を抱き締めた。  もう私の背を越し、強靭な体を手に入れた彼のたくましい抱擁に胸が詰まる。  これで事態が解決するはずもなければ、陛下がここにいる訳でもない。なのに彼の腕の中はひどく私を安堵させてくる。  どうやら私は自分で思っている以上に、彼へ心を預けているらしい。  しばらく若い彼から溢れてくる精気をこの身に浴びてから、私は彼へ言葉を向けた。 「ありがとうございます。少し、落ち着きました」 「差し出がましい真似をして申し訳ありませんでした……いかような処分も受ける覚悟はできています」 「私を想ってしてくれたことを咎めるなんてしませんよ」  彼の胸を軽く叩けば、ゆっくりと体を離してくれる。  まだ心配して見つめてくる彼に目を合わせ、私は己の意思を乗せて頷いた。 「もう大丈夫です。柄にもなく動揺してしまいました……王宮内でも動揺が広がっているはず。中を巡って他の者たちに声をかけようと思います」  私に反発を覚える者は少なくないが、それ以上に陛下を慕う者は多い。  不安に呑まれそうになっているだろう彼らを支え、執務に支障を出さないようにしなければ。  立ち上がろうとした私の前に彼の手が差し出される。  唯一私が縋ることができる手。淀む胸の一点に、小さな光が灯ったような気がした。

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