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第17-1話ズレ

   ◇ ◇ ◇  幼い頃から何度も足を踏み入れた後宮に、これほど重い足取りで向かう日が来るとは思わなかった。  侍女長から病に伏せた陛下が私と二人きりで話したいと願われていると聞き、執務の手を止めて即座に向かった。  目や喉の奥にグッと力を込めなければ、今にも涙が零れてしまいそうだ。  そんな情けない姿は見せられない。これが最期の対面となるかもしれないのに。  五日ほど前に陛下を見舞うために後宮を訪れたが、寝台に横たわる陛下の変わり果てた姿に私は思わず動揺を見せてしまった。  血色が良かった顔は青白く、頬はこけ、体が一回り縮んだのではと思いたくなるほどやせ細っていた陛下。それなのに私の動揺を少しでも解そうと、「久し振りにお前の素が見られたな」と冗談を言って微笑まれてくれた。  苦しみを抱えながら周りの気持ちを汲まれようとするその姿に、私は腹を括った。  憂いなく永久の眠りにつかれるよう、心を揺らさずに現実を受け止めることを。 「陛下、エケミルです。話があると聞いて参りました」  後宮の最奥にある寝室へ向かい、閉ざされた扉を軽く叩いて来訪を伝える。  しばらくして静かに扉が開き、侍女長が私に軽く会釈をした。

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