76 / 106

第25-2話イメルドとの接触

 どれだけ不快でも、私の望みを拒むことは王であってもできぬこと。  それに気づいているようで、イメルドは王よりも先に動いた。 「どのようなご用件か聞かせて頂きたい」  凛々しい顔を引き締め、声を荒げることも不快を滲ませることもなく、イメルドが私に尋ねてくる。  獅子のごとく戦場で暴れ、一人でも無数の兵たちを蹴散らしていく姿に畏怖され、猛火の獅子と呼ばれし元北方の敵将。勇猛なだけの男ではないことが、この行動だけでよく分かる。  アグイロスから武だけの男ではないと報告は受けていたが、実際に話が通じるようで で何より。好ましい男だと思いながら私は口を開く。 「貴方の祖国のことで聞きたいことがあります。そう怖い顔をされないで下さい。尋問して牢に入れたい訳ではないのです。ただの好奇心……良い材料があれば、利用できればと思いますが」  あくまで話がしたいだけ。今日はそれ以上のことを仕掛けたいとは考えていない。  イメルドという男を知ってこそ、これからの手の打ち方を決めることができるのだから。  ゆらり、とマクウス陛下が立ち上がりかける。  すかさずイメルドは陛下と視線を合わせ、目だけで意思を交わした後に私へ頷く。  不本意ながら後宮に囲われた日々の中で、しっかりと絆を深めている様子が伝わってくる。  ――いい傾向で何より。手の回しようがある。  私は胸に高揚感を覚えながら、「ではこちらへ」とイメルドを促し、王宮の中庭へと向かった。

ともだちにシェアしよう!