鈍色の光が黒い影――黒衣の彼の手から零れた瞬間、イメルドの体が疾風のごとく動く。 　両手で刃を挟み取り、思い切り腹を蹴って彼を跳ねのける。 　決して小さくはない鍛えられた彼の体が宙に浮かび、すぐ身を翻して着地すると、地を蹴って再びイメルドへ挑みに向かう。 　武器を持った相手と分かっているからこそだろう。イメルドは怯むどころか自ら前に出て、彼に手を伸ばす。 　剣の突きをかわし、懐へ入ったイメルドが彼の腕を捕らえ、そのまま地に倒す。 　ガフッ、と苦しげな息を吐き出した彼から力が抜ける。 　その隙を見逃さず、イメルドは彼から剣を取り上げ、押さえつけて自由を奪った。 「なびかぬ者は、すぐに始末する……これが宰相殿のやり方か」 　怒りを隠さぬイメルドと、まったく歯が立たなかった彼を私は見下ろす。 　もう少しイメルドの人となりを掴みたかったのに……まあいい。得られたものは十分あった。 　息をついてから私はイメルドへ告げる。 「……失礼しました。この者は私の護衛。忠義者なのですが、それゆえに短気を起こしてしまう時があるのです」 　あまりの力の差に愕然としているのか、それとも私の期待を裏切ったと絶望しているのか、彼がイメルドの下で足掻くことを忘れ、身を強張らせている。