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第30-3話それでも貴方に生きて欲しい

「こちらに来て下さい。貴方に話したいことがあるので……」  私が促すと彼は固い動きで近づき、隣に腰かける。  初めて寝所へ招いた時のような初々しい姿に思わず私は吹き出した。 「今さら私相手に緊張するのですか? こんなに頼もしく成長したというのに」  自分から手を伸ばして彼の頬に触れると、彼は優しく私の手を掴んで頬ずりする。 「いつだって緊張しますよ。己のしたことでエケミル様を落胆させはしまいかと……」 「貴方に落胆などしませんよ。こんなにもよく尽くしてくれて、私の期待に応えてくれるというのに」  小さく笑いながらわずにかに首を伸ばせば、彼はすぐに察して唇を重ねてくる。  優しい口づけ。淫らに交わる時とは違い、そっと重ねられるだけのもの。  念入りにされなくとも彼に深く愛されているのが伝わってきて、壊れたはずの心がまともな感覚を取り戻す。  私からゆっくり唇を離し、微笑みながら彼に告げる。 「今まで私の愚かで罪深い行いに付き合って下さり、本当に感謝しています。間もなく私が望んだ通り、あらゆるものが壊れゆく事態になるでしょう……気づかれたとしても、もう誰もこの流れは止められません」 「エケミル様からお話をうかがった時から覚悟を決めておりました。この命が尽きるまで貴方とともに――」 「いえ……今宵を最後に貴方を自由にします。明日の朝、ここを発ちなさい」

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