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第32-1話足掻き
◇ ◇ ◇
その報告を受けた時、私は自分の耳を疑った。
祖国である北の国へ捕らわれたはずのイメルドが戻ってきた。
王の護衛であるシュウノがマクウス陛下の命を受け、単身北の国へ潜入し、イメルドを救出したらしい。
国内外で猛火の獅子と謳われていたイメルドを、北の国は敵国に捕らわれたからと諦めず、どうにか救い出そうとしていた。
私の案に乗る話もイメルドを取り戻すことを条件に出していたほど。そんな祖国を蔑ろにするような男ではないと思っていたのだが……。
イメルドを呼び戻したところで、陛下にとっては弱点のまま。
せいぜい以前通りにディルワムの副官として、任務を割り振られて過ごすだろうと思っていたが――陛下は事もあろうにイメルドを後宮へと呼び戻した。
遠ざけるどころか身近に置き、周囲に仲睦まじい様子を隠さなくなった。
まったく陛下のことが理解できなくなる日が来るとは思わなかった。
イメルドに国を去られて、寝込むほど憔悴したマクウス陛下。
その反動で恋焦がれる衝動を抑えられなくなったか? 王となってから私に力を奪われ、それでも王として足掻き続けてきた陛下が愚王と成り果てるのか?
この国を壊そうとしているのに、なぜか陛下の行いを知って幻滅する自分がいた。
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