96 / 106

第32-2話足掻き

 しかし同時に、これは愚王のふりをしているのではないか? という予感もする。  遠目で陛下とイメルドの様子を見た時、明らかに陛下の目はイメルドしか映しておらず、王の寵愛を受けるイメルドもまた困惑しつつも受け入れていた。  二人の目は互いしか見えぬ、恋に酔いしれる愚者そのもの。  足掻くことを諦め、国を追われることになっても二人で手を取り合って逃げ出し、この国の滅びを受け入れてしまいそうなほどの熱愛ぶり。  後宮に忍ばせた私の手の者の話では、昼夜問わず二人がまぐわい、淫らな声を後宮内に響かせているとのこと。  なんて愚かな……と思わず顔をしかめてしまった。  もっと賢い王だと思っていたのに。  公私混同せず忠義を尽くし、立場をわきまえる武人だと思っていたのに。  私にとっては陛下たちの愚行は都合がいい。  それなのに喜びよりも落胆と憤りばかりが私の胸を占めた。  これから国難に見舞われるというのに、愚者となった王。  心から同情しながら私はその日を待った。  東と西と北の国、三国同時に攻め込まれるという国難。  王宮にいる兵や将は三方に散り、迫り来る脅威に抗う。  この国一番のディルワムと張り合えるほどの力を持つイメルドは、将軍として兵を率いて北へ向かった。  手薄になった王宮。予定通りに私は挙兵し、王を捕らえに後宮へ兵を差し向けた。

ともだちにシェアしよう!