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第32-2話足掻き
しかし同時に、これは愚王のふりをしているのではないか? という予感もする。
遠目で陛下とイメルドの様子を見た時、明らかに陛下の目はイメルドしか映しておらず、王の寵愛を受けるイメルドもまた困惑しつつも受け入れていた。
二人の目は互いしか見えぬ、恋に酔いしれる愚者そのもの。
足掻くことを諦め、国を追われることになっても二人で手を取り合って逃げ出し、この国の滅びを受け入れてしまいそうなほどの熱愛ぶり。
後宮に忍ばせた私の手の者の話では、昼夜問わず二人がまぐわい、淫らな声を後宮内に響かせているとのこと。
なんて愚かな……と思わず顔をしかめてしまった。
もっと賢い王だと思っていたのに。
公私混同せず忠義を尽くし、立場をわきまえる武人だと思っていたのに。
私にとっては陛下たちの愚行は都合がいい。
それなのに喜びよりも落胆と憤りばかりが私の胸を占めた。
これから国難に見舞われるというのに、愚者となった王。
心から同情しながら私はその日を待った。
東と西と北の国、三国同時に攻め込まれるという国難。
王宮にいる兵や将は三方に散り、迫り来る脅威に抗う。
この国一番のディルワムと張り合えるほどの力を持つイメルドは、将軍として兵を率いて北へ向かった。
手薄になった王宮。予定通りに私は挙兵し、王を捕らえに後宮へ兵を差し向けた。
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