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第32-7話足掻き

 命を落とすか、運よく生きながらえても生涯まともな生活を送れぬまま朽ちていくか。  妙な気分だった。結局彼も壊してしまうのかと胸は痛むのに、やめなさい、と言う気にもなれない。  どこまでも彼は私のものであり続けようとしている――ならば私も同じでありたい。 「良いでしょう。貴方にすべてを差し上げますから……先に死ぬことがないように」 「……はい。では失礼します」  多くを語らずに彼は立ち上がり、早々に踵を返して私から離れていく。  マクウス陛下が私の元へ到着した時には、もう彼の姿はなかった。  私は一度正面から陛下を見据えてから「こちらへどうぞ」と背を向け、尖塔へと向かう。  二階の廊下に足を踏み入れて間もなく、背後から怒号や剣がかち合う音が聞こえてくる。  どうやら戦いを再開したらしい。わずかに私は振り返り、横目で陛下を見やる。心配そうに元来た道を見ながら、それでも戦意は萎えていない。  覚悟を決めているからだろうか。  それとも誰かが加勢しに来るのを待っているのかもしれない。  将軍として兵を率いて北方に向かったイメルドの助けを……。  万が一のために、イメルドが内乱に気づいて駆けつけようとしても、北方の町や村を私兵に襲わせ、足止めさせるように手を回してある。  優しい陛下の意向を汲んで、イメルドは襲われている者たちを見捨てることはしないだろう。  イメルドは間に合わない。  淡い期待を持っている陛下に憐憫の情を抱きながら、私たちは尖塔へと向かった。

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