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第3話

 翌日、ヨゾラは熱を出した。  ナナトは体温計の表示を見て、思わず叫んだ。 「わ、三十八度もある! ヨゾラ、大丈夫?」  はふはふと真っ赤な顔で呼吸するヨゾラは、ゆっくりと目を開ける。 「ナナト……頭痛いです」 「うーん、いつものやつかぁ」  ヨゾラは月一回か二回のお泊まり会の後に、よく熱を出す。頭痛と熱だけ出るそれは二人のなかで『いつものやつ』になっていた。 「久しぶりに熱が高いね。なんか食べれそう? なんか買ってこようか?」  ナナトは氷枕をヨゾラの頭の下に差し入れる。 「……大丈夫です、それよりも」  ヨゾラはナナトの手をとって握る。熱い体温が瞬く間にナナトに伝わってきた。 「そばに、いてください……」 「もー、甘えん坊さんだなぁ、ヨゾラは」  熱が出るとひどく甘えたになるヨゾラの髪をナナトは優しく撫でる。  苦し気に眉を顰めるヨゾラはとても辛そうだった。 「ここにいるから、寝れそうなら寝ちゃいな」  とんとんと背中を優しく叩くと、ヨゾラの瞼がゆっくりと閉じかける。 「……ナナト」 「……ん? なに」 「どこにも行かないでくださいね」 「行かないよ」 「……良かった」  そう言うと、少し早い寝息が聞こえてくる。  ナナトはゆっくりとヨゾラが抱きしめる手を丁寧に外した。 「おやすみ、ヨゾラ」  ナナトは立ち上がって一度大きく伸びをする。  ――ヨゾラが起きた時の為にごはん作らないと。  キッチンに向かい、冷蔵庫に手をかけて、ふと止まる。  冷蔵庫に貼られた時間割を見ると、今日は一限だけ必修がある。  ヨゾラは真面目に出席しているが、ここ最近はお泊まり会の後の発熱と講義が被り、何回か休んでいる。  ――板書だけ書きに行こうかな。大学も一回行ってみたいし。昨日マスコット買ってもらったし。  講義は午後からなので、ごはんを作ってからでも充分間に合う。  ナナトはヨゾラへの気遣いとほんの少しの興味から大学へ行く事にした。 「よし、ばっちりかな」  普段の金髪をスプレーで黒に染めて、ヨゾラの服を着る。  鏡を見れば、いつも自分が見ているヨゾラと瓜二つだ。  ほんの少しだけナナトの方が体格がいいが、見慣れていない人間が気づく事はないだろう。  ヨゾラは全く起きる気配すらなく、寝息を立てている。  ナナトはヨゾラのカバンを持って、音を立てないようにドアノブを捻った。

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