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第4話
「こんにちは、ヨゾラ君」
「おっす! ヨゾラ」
「あ、ヨゾラ君! 前は相談に乗ってくれてありがとう」
大学に着いてから行く先々で声をかけられる。誰も彼もが非常に好意的だ。
予想通りというか、予想以上だった。
――さすがヨゾラ。
ヨゾラの、周りにうまく取り入り、過ごしやすいように周りの環境を整える力は、もはや才能の域に達している。
妬まれないように、嫌われないように悪意の芽は早々に摘み取り、好意の花だけを咲かせる。
非常に面倒な人間関係の調整をヨゾラは淡々とこなす。
故に彼周りには肯定的に彼を見る人間しか残らない。
ナナトは講義を聞いて、なんとなく大事そうな所を板書する。きっとヨゾラはノートを借りるなどして、自分でなんとかするだろうが、少しでも助けになりたかった。
講義が終わり、帰る支度をしていると、軽く肩を叩かれる。男子大学生二人だ。
「おー、ヨゾラ、今から帰るのか?」
「サークル、一緒に行こうぜ」
恐らくヨゾラのフットサルサークルの人間だと思われるが、当然ながら名前はわからない。
「……申し訳ありませんが、今日は体調が優れないので帰ります」
あまり関わるとボロが出そうだし、そろそろヨゾラが目を覚ました頃かもしれない。
そう思い、断りを入れると、二人とも頷いた。
「そういえば、ヨゾラ、三日前も体調悪いから講義もサークルもしばらく休むって連絡くれてたな」
「じゃあ、まだ病み上がりか。大丈夫か」
ナナトはピクリと反応する。
――三日も、大学とサークルを休んだ……?
話が本当なら、ヨゾラがサークルのお泊まり会があると言っていた二泊三日、ヨゾラは家にも大学にもいなかった事になる。
「おい、マジで顔色悪いぞ。無理すんな、医務室行くか」
二人は黙り込むナナトの顔を覗き込む。
「……サークルで二日ほど泊まりで集まったのでは?」
動揺を隠し、なんとか二人に問うと、二人は顔を見合わせ、笑い合う。
「何言ってんだ、そんなワケないだろう。だいたいサークルメンバー全員で泊まる所なんて、なかなかないし」
「野郎どもばっかりで集まってどうすんだよ」
ナナトは呆然とした。
――ヨゾラが嘘をついた。
「……すみません、帰ります」
そう言って席を離れる。そのまま居たら、怒りのままに怒鳴り散らしそうになったからだ。
――ヨゾラが俺に嘘をついた。
――俺が一番嫌いな事だって知っているのに。
――平然と嘘をついた。
――俺の知らないヨゾラが三日もどこかで何かしていた。
ああ、頭が痛い。考えたくない。
確かに少し考えれば、わかる事だ。サークルでお泊まり会なんて月に何回もできない。
ヨゾラが自分に嘘をつかないと思っていたから、全く疑いもしなかった。
ヨゾラがなぜ嘘をついたのか、三日間も何をしているのか。
簡単な事だ。本人を問い詰めればいい。
そこまで考えて、ナナトはふと思いついた。
だけど怒りのままにヨゾラを問い詰めた所で、彼の事だ、きっと本当の事は言わずに、うまくかわしてしまうだろう。
むしろ気がついていないフリをして泳がせ、原因を突き止めた方が言い逃れできないのではないか。
ナナトは思索に耽る。
――月に一回ないし二回、必ず泊まる準備を二日分して出て行く。
――俺達はあまり金がないし、ネカフェでもそう何度もは泊まれない。
地図検索でヨゾラがくれた限定マスコットの販売店を探す。
販売店の周囲に安価なネカフェやビジネスホテルは見つからなかった。
「確実に誰かといる」
――俺以外の誰かが俺の知らないヨゾラを見てる。
「俺を見ないヨゾラなんて、俺のヨゾラじゃない」
仄暗い怒りが身を焼き尽くすようだ。
「嘘をついて俺を裏切った事、絶対に後悔させてやる」
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