5 / 28
第5話
それから二週間ほどたったある日、ヨゾラは泊まりの準備をしていた。
「では明日の夜から、例のサークルのお泊まり会に行って来ます。帰りは、明日と明後日の夜泊まって、その次の日の夕方になると思います」
「わかった、気をつけてね」
ナナトは内心を隠して、いつもと同じように振る舞う。
この二週間、ヨゾラの顔を見るたびに問い詰めたかったが、なんとか耐えた。
でも、ヨゾラが触れてきても、こちらからは触らなかった。
ヨゾラの事がわからなくなって、そういう気分にはなれなかったのだ。
準備の終わったヨゾラは、無表情でテレビを見るナナトの隣に座り、ナナトの手に自分の手を絡める。
「……どうしたんです、最近元気がないですね」
「そんな事ない、離して」
ヨゾラからのスキンシップには答えず、絡められた手を乱暴に振り解いて、テレビを見続ける。
ヨゾラは悲しそうな顔をしたが、しかしすぐに微笑む。
「気乗りしませんか……ねぇ、ナナト」
「何」
「僕が帰ってきたら、僕とセックスしませんか」
ナナトは一瞬呆気にとられたが、すぐに元の無表情に戻る。
「……考えとく、ヨゾラが熱出さなかったらね」
ナナトは表情を変えないように、対応するのが精一杯だった。ギチギチと拳を強く強く握って耐える。
――裏切ったクセに……俺を騙してるクセに……その俺とセックスするだって? 馬鹿にしてんのか、コイツは。
激しい怒りとともに、一抹の悲しさがじわりと込み上げてくる。
――こんな事、知らなきゃ良かった。そしたら何も考えずにヨゾラと愛しあえたのに。
それ以上話さず、テレビを見つめるナナトに、ヨゾラは「おやすみなさい」と言って、リビングの端に敷いた布団に入る。
しばらくして規則的な寝息が聞こえてきたが、ナナトはとても眠れそうになかった。
「……嘘つき」
テレビを見つめるナナトの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。
翌日の日が暮れた頃、ヨゾラは荷物を持って出て行った。
それを淡々と見送り、ナナトはスマホを操作する。
ヨゾラの荷物に忍ばせた小型GPSがいつでもナナトに居場所を教えてくれる。
これなら暗くて目視で見失っても、すぐに追跡できると考えたからだ。
「さ、追いかけるか」
GPSは真っ直ぐ駅に向かい、そのまま中を通って西口から出て行く。
マスコットの販売店の前を通り、少し入り組んだ道に入る。
その先は高級ホテルが立ち並ぶエリアだ。
ナナトは入り組んだ道でヨゾラの後ろ姿を見つけ、物陰に隠れながら後を追う。
しばらくすると、ヨゾラがあるホテルの前で足を止めた。
何やらスマホを操作している。
そのまま十分ほど待っていただろうか、ホテルの前に一台の高級車が止まる。
車からスーツを着た中年太りの男が降りてきて、ヨゾラのもとにやって来た。
二人は少し会話した後、目の前のホテルへ入って行く。
男がヨゾラの腰に馴れ馴れしく手を回していたのが見えた。
ナナトは抜かりなく二人がホテルへ入って行った所を撮影する。
「ん、あのオッさん……どっかで」
ナナトは男に見覚えがあった。必死に記憶の糸を手繰り寄せる。
「思い出した、あの女の……兄貴だ」
ともだちにシェアしよう!