15 / 28
第15話
それから数日後の夜。
ナナトは店長から、ヨゾラの居場所がわかったから、バーに来て欲しいと連絡を受けた。
存外に早かったのだろう、だが、ナナトは気が気でなかった。
居場所がわかった今日までの間、バイトにも行ったが、ほとんど身に入らなかった。
朝になり、すでに閉店しているバーに裏口から入店し、待っていた店長に声をかける。
「おはようございます。ナナト君、こちらへ」
ナナトが店長とともに自室に向かうと、そこにはくたびれたスーツを着て、眉間に皺を寄せた男性が疲れた様子で椅子に座っていた。
「リク、連れて来ましたよ」
店長にリクと呼ばれた男は、じっとりとした視線をナナトに向ける。
「お前の叔父さんと兄ちゃん、見つかったぞ」
リクはぶっきらぼうに言い放つ。
「場所は帝王ホテルのスイートルームの一室。ホテルに多額の金を払って、箝口令を徹底していた。従業員には話せば即解雇と言っていたようで、随分と手こずった」
リクは大きなため息をつく。
「……ヨゾラは、ヨゾラは無事なんでしょうか」
ナナトの不安気な声に、リクはさらに眉間の皺を深める。
「知らん。俺は場所を探せと言われただけだ」
すると、黙って二人のやりとりを見ていた店長がリクの頭をポコリと叩く。
「……でっ!!」
「いつも言い方が悪いと言っているでしょう。場所を見つけ出したなら安否もわかっているはずです」
「……全くお前はすぐに手が出るな……! 生きてるよ! ルームサービスやベッドメイキングに入った従業員が姿を見ている」
ナナトはホッと息を吐く。
「……だが急いだ方がいい。従業員の話だと、寝ている事が多いと言っていたから、体も心も限界が近そうだ」
「……!? 俺、すぐに行って……!!」
顔面蒼白になり、部屋から出ようとするナナトを店長が止める。
「落ち着いて、ナナト君。助けるのは明日にしましょう」
「でも、ヨゾラがっ……!!」
「今日だろうが、明日だろうが、一日でそこまで状況は変わんねーだろ」
吐き捨てるように言うリクの頭に再度鉄拳が炸裂する。
「……言い方!!」
「……いだっ!!」
「ナナト君、おそらく今、貴方一人で行っても、フロントで追い返されるだけです」
「……カイトの言う通りだ。明日、俺とカイトが付いて行くから、お前は兄ちゃんを助けろ。兄ちゃんを連れ出したら、後は俺達がやっておく」
話がうますぎる気がするが、あえて詮索せずにナナトは頷く。
「それから報酬の件だが……カイトが……変わりに三百万建て替えるそうだ」
「えっ」
思わずナナトは店長を見る。店長はニコニコ笑っていた。
「出世払いという事にしておきます。ナナト君、急ぎませんから、しっかりと働いて返してくださいね」
頷くしかないナナトをよそに、リクは退屈そうに欠伸をする。
「明日の十二時、ルームサービスのタイミングで仕掛けるぞ。詳細は明日。わかったら、さっさと帰れ」
「……リクは早く帰って、ゆっくり休めと言いたいみたいです。私もその方がいいかと。また明日。気をつけて」
「……分かりました。よろしくお願いします」
ニコニコと笑う店長ととても不機嫌そうなリクの顔を見て、ナナトはぺこりとお辞儀をし、部屋を出て行く。後にはカイトとリクだけが残った。
ともだちにシェアしよう!