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第15話

 それから数日後の夜。  ナナトは店長から、ヨゾラの居場所がわかったから、バーに来て欲しいと連絡を受けた。  存外に早かったのだろう、だが、ナナトは気が気でなかった。  居場所がわかった今日までの間、バイトにも行ったが、ほとんど身に入らなかった。  朝になり、すでに閉店しているバーに裏口から入店し、待っていた店長に声をかける。 「おはようございます。ナナト君、こちらへ」  ナナトが店長とともに自室に向かうと、そこにはくたびれたスーツを着て、眉間に皺を寄せた男性が疲れた様子で椅子に座っていた。 「リク、連れて来ましたよ」  店長にリクと呼ばれた男は、じっとりとした視線をナナトに向ける。 「お前の叔父さんと兄ちゃん、見つかったぞ」  リクはぶっきらぼうに言い放つ。 「場所は帝王ホテルのスイートルームの一室。ホテルに多額の金を払って、箝口令を徹底していた。従業員には話せば即解雇と言っていたようで、随分と手こずった」  リクは大きなため息をつく。 「……ヨゾラは、ヨゾラは無事なんでしょうか」  ナナトの不安気な声に、リクはさらに眉間の皺を深める。 「知らん。俺は場所を探せと言われただけだ」  すると、黙って二人のやりとりを見ていた店長がリクの頭をポコリと叩く。 「……でっ!!」 「いつも言い方が悪いと言っているでしょう。場所を見つけ出したなら安否もわかっているはずです」 「……全くお前はすぐに手が出るな……! 生きてるよ! ルームサービスやベッドメイキングに入った従業員が姿を見ている」  ナナトはホッと息を吐く。 「……だが急いだ方がいい。従業員の話だと、寝ている事が多いと言っていたから、体も心も限界が近そうだ」 「……!? 俺、すぐに行って……!!」  顔面蒼白になり、部屋から出ようとするナナトを店長が止める。 「落ち着いて、ナナト君。助けるのは明日にしましょう」 「でも、ヨゾラがっ……!!」 「今日だろうが、明日だろうが、一日でそこまで状況は変わんねーだろ」  吐き捨てるように言うリクの頭に再度鉄拳が炸裂する。 「……言い方!!」 「……いだっ!!」 「ナナト君、おそらく今、貴方一人で行っても、フロントで追い返されるだけです」 「……カイトの言う通りだ。明日、俺とカイトが付いて行くから、お前は兄ちゃんを助けろ。兄ちゃんを連れ出したら、後は俺達がやっておく」  話がうますぎる気がするが、あえて詮索せずにナナトは頷く。 「それから報酬の件だが……カイトが……変わりに三百万建て替えるそうだ」 「えっ」  思わずナナトは店長を見る。店長はニコニコ笑っていた。 「出世払いという事にしておきます。ナナト君、急ぎませんから、しっかりと働いて返してくださいね」  頷くしかないナナトをよそに、リクは退屈そうに欠伸をする。 「明日の十二時、ルームサービスのタイミングで仕掛けるぞ。詳細は明日。わかったら、さっさと帰れ」 「……リクは早く帰って、ゆっくり休めと言いたいみたいです。私もその方がいいかと。また明日。気をつけて」 「……分かりました。よろしくお願いします」  ニコニコと笑う店長ととても不機嫌そうなリクの顔を見て、ナナトはぺこりとお辞儀をし、部屋を出て行く。後にはカイトとリクだけが残った。

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