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第17話

 ナナトはついに一睡もできないまま、朝を迎えた。  バーでの集合時間は十時。毎日、必ず利用されるという十二時のルームサービスを利用して部屋に入る予定だ。 「おはよう、ナナト君。……よく眠れなかったようですね」  瞬きを繰り返して時折目を擦るナナトに、バーの店長であるカイトは心配そうに声をかける。 「……はい」  力なく答えるナナトに、探偵のリクはふん、と鼻を鳴らす。 「コイツのコンディションなんて知った事じゃねえ。 だが、やらかさねぇようにしろよ。行くぞ」 「ふふ、無理をしないようにと、言いたいみたいですね」  カイトは楽しげに笑って、リクの後を追う。 「……はぁ、気をつけます」  ――店長と、リクさん……だったかは、随分と付き合いが長そうだ。  ニコニコといつもに増して機嫌の良さそうな店長とは裏腹に、リクは目つきの悪い目をさらに細めて、イライラしているのが傍目からでもわかる。 ――正反対っぽいけど、逆に気が合うのかなぁ。俺とヨゾラもそんな感じだし。店長って雰囲気とかヨゾラにすごく似てるんだよなぁ。ま、俺はリクさんみたいにいつも不機嫌そうじゃないけど。  ナナトが色々と考えているうちに、あっという間に帝王ホテルの入口に到着する。  ここは名高い高級ホテルで、フロントの造りも豪華絢爛、従業員もそれに見合う一流の作法で対応し、非日常的な様相を呈していた。  今までそういったものに全く縁のなかった、ナナトの口からは思わずため息が出た。生まれはセレブであっても、育ちは決して裕福ではなかったからだ。 「少し待っていてくださいね」  カイトはそう言って、フロントに向かって歩いていく。 「……お前はちょっとこっちに来い」  リクはナナトの腕を掴み、フロントから離れた椅子まで連れてくる。 「あんまりアイツを、カイトを信用しない方がいいぞ」 「え」  ぼそりと呟かれた言葉にナナトは目を白黒させる。  ――仲がいいと思ったけど、勘違いか。  だが、はっきり言ってバイト先の店長と、よくわからない謎の探偵と、どちらが信用できるかといえば、店長である。 「自分の利益になるから今回は味方なだけで、そうじゃなけりゃ静観、下手したら敵になるからな」  リクは眉間の皺を指で揉む。 「これ以上アイツに借りを作るな。首が回らなくなって、気がついたら、ぱくーっと頭から食われてるぞ」 「は、はい」  ナナトが思わず頷くと、リクはナナトの頭をぐしゃぐしゃと撫でる。  撫でる、というよりは、掻き回すに近かった。  そんな二人の元にカイトが笑顔でやってくる。 「交渉成立しました。後はルームサービスに乗じてナナト君が部屋に入るだけです。注文が入れば私の携帯に連絡してもらうように伝えています」 「そうか、じゃあ俺は少し出てくる」  そう言ってフラリとリクは入り口に向かい、外に出て行く。 「ナナト君、座って。顔色が悪いですよ。少し休んだ方がいい」  カイトが椅子に座って、ナナトに手招きをする。ナナトはカイトの横の椅子に腰掛ける。 「後は貴方が部屋に入って、ヨゾラ君を助けるだけ。私もリクも居ますから大丈夫」  柔らかいカイトの声を聞いて、椅子に座っていると、緊張の糸が切れてきて、ナナトは少しウトウトする。 「少しだけ寝ててもいいですよ、その時が来たら起こしますね」  その声を聞きながら、ナナトは目を閉じた。

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