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括り紮げる 4

「手伝う」 「あ・・・じゃあ洗剤すすぐのお願いします」 「うん・・・」 緋音さんはオレが洗剤で洗った食器を素直に受け取って、お湯ですすぐ。 無言で作業をしながら、オレの様子を伺(うかが)うように時々視線を送ってくる。 これは、なんか話しがあるんだな。 言い難(にく)い話しがある時、緋音さんは大体こういう態度を取る。 さすがに付き合いが長くなってきたから、オレでもわかるようになってきた。 ご飯を食べている時には言い出せなかったくらいだから、なかなかなことかもしれない・・・。 急(せ)かすようなことはせず、緋音さんが話せるタイミングを待つため、オレは敢(あ)えて何も言わずにひたすら作業を続ける。 緋音さんが意を決したように、紅い口唇をきゅっと噛み締めて、お茶碗(ちゃわん)を洗いながらポツリと言った。 「今度・・・またイギリス行くから」 オレは反射的に顔をあげて、少し声を上げてしまった。 「え?またですか?」 「前のプロジェクトが好評だったから・・・またアルバム作ることになって・・・それも好評だったらツアーやるって話しになってる」 「ああ、そういうことですか・・・」 前に作ったアルバムが好評だったことくらい、オレでも知ってる。 ってか緋音さんが参加してる曲は全部買ってるし、雑誌やネットも全部チェックしてるから、世間の反響くらい知ってる。 1年くらい前にお遊び的な感覚で始まった話しに火がついて、オレをほっぽって、イギリスまで行ってアルバムが作られて発売されている。 参加している人が世界的なミュージシャンばかりだったこともあり、全世界にCDが流通して、ネット配信もされている。 それが好評だったからまたアルバム作って、曲数ためて、ツアーする気なのか。 事務所やレコード会社の考えそうなことだ。 オレは最後の皿を洗い終わって緋音さんに渡すと、スポンジを洗いながら、 「今度はどのくらい・・・行くんですか?」 拗(す)ねた口調になっているのが自分でもわかる。眉根がものすごい寄って、心底嫌そうな顔をしているのもわかった。 仕事なんだからしょうがないってわかっていても、緋音さんと離れるのがとにかく嫌だった。 緋音さんがオレのテリトリーから外れたところに行くのが、とにかく許せなかった。 オレがそう思うことをわかっているから、緋音さんはなかなか言い出せなかったんだろう。 緋音さんには申し訳ないけど、嫌なものは嫌だ。 緋音さんは皿を洗い終わって、水道を止めると、水切りカゴに皿を入れながら呟(つぶや)いた。 「2ヶ月くらい・・・状況によっては伸びる」 「そんなに?!」 「前回は5曲だったけど、今度はフルで作るから、むしろ時間ないくらいだ」 「それは・・・わかります・・・」 緋音さんはタオルで手を拭(ふ)いて、ダイニングテーブルに戻ると、残っていた白ワインをグラスに注いだ。 そして自分の椅子に座り直すと、オレのグラスにもワインを注いで、こちらを振り返った。

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