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括り紮げる 6

「シャワー浴びてきます」 「うん」 いつもオレが先にシャワーを浴びて、緋音さんがシャワー浴びている間に長い金髪を乾かしているので、いつもの行動をして心を落ち着かせようとした。 オレはダイニングキッチンを抜けて、バスルームに向かおうと廊下に出る扉に手をかけた。 その時。 「これ飲み終わったら、行くから」 緋音さんの、少し高くて掠(かす)れた、囁(ささや)くような声。 耳から侵入して、鼓膜を刺激して、脳味噌を揺さぶって、精神を破壊するほどの、その言葉。 一緒にお風呂に入っていいっていう意味の、言葉。 一緒だとどうしてもオレが歯止めが効かなくなって、そのままセックスしてしまうのを、緋音さんは知っている。 いつもは嫌がって拒否するのに、今日はオレが拗ねてるから、ある種ご機嫌取りのためなんだろう。 そんなこと言ってくれるなら、たまには拗ねるのもありだなって、ちょっと思ってしまった。 オレはドアノブに手をかけたまま、その衝撃に堪えようと呼吸を止めていた。 数瞬後、オレは大きく呼吸を繰り返す。 「早めに来て下さい」 「はいはい」 自分がどんな顔をしているのかわからないので、緋音さんを振り返ることもできず、オレはそのままドアを開けてバスルームを目指す。 脱衣所で服を脱ぎながら、さっきの緋音さんを思い出す。 オレの考えることとか感じることとか、反応とか言う事とか行動とか、そういうの全部わかってて、先回りしているこの感じ。 間違いなく、オレの飼い主。 オレだけのご主人様。 「・・・・あーもう・・・・・・・・・ほんと好き・・・」 セーターを脱いで、深い溜息をついた。 * イギリスに来てから2週間が経っていた。 オレは短期賃貸用のアパートメントに寝泊まりしていた。 事務所と地元のコーディネーターが相談して、ホテルよりはこっちのがいいだろうと用意してくれた部屋だった。 バスルームとトイレとキッチン、洗濯機やエアコンなどの家電も設置されていて、駅から近くて治安も悪くない所だった。 スタジオからも近いので良いのだが、日常生活がままならない。 なんせ炊事掃除洗濯、全部珀英にやってもらっていたから、いきなり一人暮らしを要求されても、できるわけがない。 ほとんどスタジオにこもってるはいるけれど、そろそろ限界に感じる。 ご飯は外で食べればいいけど、洗濯する時間も掃除する時間もなかなか取れず、部屋は結構散らかってるし洗濯物も溜まっている。 なんせこっち来てから、洗濯は先週1回しただけだ。 掃除機なんかかけた記憶がない。 このままじゃやばい。 ホテルだったらお金さえ払えば、掃除も洗濯もやってくれるから、ホテルのが良かったなって、今更思う。 これはもうハウスキーパーを頼むしかないじゃないか・・・。

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