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括り紮げる 9
電気を点けて、玄関で靴を脱ぎスリッパに履き替える。
基本土足で生活する部屋だけど、オレは日本人だからちゃんと靴を脱ぐようにしている。
珀英はオレにならって靴を脱ぎ、出してあげたスリッパに履(は)きかえて、後をついてくる。
オレだったら持ち上げられない、大きなスーツケースを軽々持ち上げているのを見て、体格の差を再認識する。
まあ、ジム行って鍛えてて腹筋バキバキだし、腕も筋肉で太いし、オレを簡単にお姫様抱っこするくらいだから、当たり前か。
廊下を歩きながら、トイレやバスルームの場所を教えて、突き当たりのドアを開ける。
リビング兼ダイニングキッチンとなっていて、広さは12畳くらいある。そしてリビングの隣が寝室になっている。
「荷物その辺に置いていいぞ」
そう言いながら部屋の隅にギターを置いて、着ていた黒のスプリングコートを脱ぐ。リビングのソファにコートを投げて、肩からかけていたカバンをその上に置いた。
ふわ・・・っと珀英の匂いがした。
珀英が後ろから抱きしめてきて、肩と腰を強く引き寄せられた。珀英の顔がすぐ横にあって、低い熱い声で囁(ささや)く。
「緋音さん・・・会いたかった・・・」
耳に珀英の熱い吐息がかかる。
ぞくぞくした。
背筋から腰にかけて快感が走って、呼吸が止まった。熱い何かがお腹の中に生まれて、じわじわとその熱が全身に広がっていく。
ああ・・・もう・・・!
ずっとスタジオにこもってて、話し合ったりギター弾いたり、色々疲れてるのに、それなのに。
なんで・・・こんな・・・!!
珀英の熱い体温に、耳に頬にかかる吐息に、脳味噌がゾクゾクして、軽い眩暈(めまい)がする。
「会いてくて死にそうだった・・緋音さん・・好きです大好き、会いたかった、愛してる、抱きたい・・・抱かせて下さい」
珀英の言葉が、執念が、声が、妄執(もうしゅう)が、熱が、鼓膜から注がれて、脳味噌を侵(おか)して、呼吸ができなくなる。
いきなり発情(さか)っている珀英は、オレが着ている薄いセーターの下に手を入れてきて、胸からお腹にかけて撫ぜられる。
外気で冷えた珀英の指が、するりと胸を下りる感触に、体が震えた。
抵抗しようと、振り解(ほど)こうと、思うこともできなかった。
体が動かなかった。
珀英の全てを感じたくて。
結局、オレも、どうしようもなく、珀英に会いたかったし、抱かれたかった。
オレは珀英の腕の中で身動(みじろ)ぎして、体を反転させると珀英の首にしがみついた。
珀英の泣き出しそうな表情(かお)を見ながら、そっと顔を近づけて、触れるだけのキスをする。
珀英の少し厚めの口唇が、いつもより冷たかった。本当はオレが帰って来るまで少し待っていたんだと、わかった。
オレは何も言わずにそのまま首に顔を埋(うず)めた。珀英の首筋に熱い息を吐いて、そっとその首筋に口吻ける。
珀英の欲望を煽(あお)る。
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