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括り紮げる 14

お互い無言で食事を再開する。 オレはとりあえず何気ない会話をしなくてはと焦って、 「とりあえず、冷凍保存できるもの作って置くんで、ちゃんと作って食べて下さいね。冷凍パンはオーブンで焼けば美味しいですから。野菜も小分けしておくんでちゃんと食べて下さい」 「あ〜もう・・・はいはい・・・」 眉根を寄せて、溜息をつきながら適当に返事をして、うるさいなって表情に全部出ている緋音さんに、オレは盛大に溜息をつく。 「こっち来てから外食しかしてないですよね。3kgくらい太ってますよ」 「え?!」 「まあ元々痩せてるから少し太っても大丈夫ですけど、脂っこい揚げ物とかで太るのは感心しないですね」 「え、オレ太った?」 緋音さんが食べるのを中断して、妙に絶望したような表情をする。そんなすぐに太ると思ってなかったのかもしれない。 日本にいた時は、オレが栄養とか脂分とかカロリーとか全部管理してたから、勢いよく太ったりはしなかったけど、ロンドンに来てから外食中心になったせいだろう。 外食は塩分と脂分がどうしても多くなるから簡単に太る。 そこは全く考えていなかったようで、緋音さんは完全に手が止まっていた。 あまりにショックを受けたような表情をしているので、オレは自分が言い出したことなのに、フォローを入れていた。 「いや、元々痩せすぎなんで3kgくらい大丈夫ですよ。むしろもっと太った方がいいけど・・・」 「なんで・・・3kgってわかるんだ?」 「そりゃあ、貴方の体ですから。毎日抱き抱えてるし、100g単位でわかりますよ」 「え、気持ち悪い」 緋音さんが眉根を寄せて、ものすんごいドン引きした感じで、オレを見ながら体を引いた。 緋音さんの中で自分が太ったことよりも、オレが緋音さんの体重がわかるほうのが衝撃になったみたいだけど。 気持ち悪いって・・・!! 冷静に考えたらたしかに気持ち悪いけど、でもそんな・・・直接言わないで!! オレは気持ち悪いって言葉が衝撃すぎて、思わずフォークとナイフを置いて考え込んでいた。 もしかしなくても、オレって今までずっと気持ち悪かったんじゃ・・・。 ってか、普通に考えて気持ち悪いか。 いきなりしつこくまとわりついて、いきなり告白して、いきなり家に入り浸(びた)って家事全般やり出して、いきなりキスとか色々やらかして・・・。 ああ、うん気持ち悪いわ。 オレがされたら絶対無理だし、嫌いにしかなれないのに、緋音さんはオレを受け入れて好きになってくれたんだ・・・何で? 一旦そんな風に考えだしたら止まらなくなって、固まったオレを見て、緋音さんが慌てた様子で言う。 「あ・・・えっと、いいから!お前はそのままでいいから!そのくらい強引のが・・・いいから・・・」 言いながら緋音さんが顔を赤くして、無言になってしまってトーストを口に運ぶ。オレはそれを見ながら、 「本当に・・・いいんですか?」 「あ〜・・・だって珀英が強引だったから・・今こうしてる訳で・・・」 オレを受け入れようと言葉を選びながら緋音さんは、途切れ途切れに言った。 飼い主として、一生面倒みるって言ってくれたから。 オレを拒絶しないでいてくれる。 オレには、それだけで充分だった。 「・・・ありがとうございます・・・」 それしか言えなかった。 本当はわかってるんです。 オレなんかが貴方に釣り合わないってこと。 世界的なアーティストの緋音さんと、日本で細々活動しているオレなんかじゃ、全く釣り合わない。 緋音さんがオレを受け入れてくれたことすら、奇跡だってことぐらい知ってる。 でも、その奇跡を現実にしたのは、オレの執念と愛情だって、思ってるから。 誰になんて言われようと、それでいいと思ってる。 今はオレを好きでいてくるし、オレの飼い主でいてくれてる。 でも、いつ捨てられてもおかしくない。 そんなことわかってる。 捨てられたくない。 そのための努力は怠(おこた)らない。 永遠に飼っていて欲しいから。 誰にも譲るつもりはない。

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