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括り紮げる 16
と言った。その途端、珀英は本気で嬉しそうにぱあっと笑顔になって、ぶんぶん尻尾振り始めて、でも次の瞬間取り繕(つくろ)うように慌(あわ)てて言った。
「いやでも、邪魔になりますし・・・」
「いいから行くぞ。お前の勉強にもなるから」
「でも・・・」
「早くしろ、置いてくぞ」
「えっあっっ・・・ちょっとだけ待って下さい!」
珀英は慌ててコートやら財布やら手にして、出かける準備をする。オレは珀英を無視して玄関へと行き、愛用の黒い皮のブーツを履く。
しばらく待っても珀英が来ない。
痺(しび)れを切らしてもう行っちゃおうかと思った時に、珀英が小走りでリビングから出て来た。
「すみません、待たせちゃって」
「何してんだよ?」
「まあ、ちょっと」
珀英はにっこり笑って誤魔化(ごまか)す。
まあいいや、と思ったが珀英がやけに荷物を持っていることに気づいた。
いつものショルダーバックには財布やら携帯やら入っているだろうことがわかるけど、それとは別に布袋を持っている。
何か重量のあるものを入れている感じに見えるけど、何だ?
珀英はオレが袋に視線を送っていることに気づいて、若干隠すように袋を後ろに回すと、
「さあ、早く行きましょう」
と玄関の鍵を開けてドアを開ける。そしてオレの背中を押して外へと押し出した。
夕方なので幾分(いくぶん)気温が下がり、乾いた風が頬を撫ぜる。
オレに続いて珀英が出て来て、何故か珀英が鍵を持っていて、鍵を閉める。
ここの合鍵は渡していないから、訝(いぶか)しげに見ていると、珀英は苦笑いをしながら、
「買い物行った時に借りました。すみません」
と言いながら鍵を差し出す。
「ああ・・・別にいいけど」
オレは鍵を受け取ると失くさないようにカバンにしまう。そのまま階段に向かって歩き出す。珀英は後をついてくる。
ロンドンは日本と違って昼夜の時間がだいぶ違う。
太陽の出ている時間が冬はだいぶ短いし、春から夏はだいぶ長い。サマータイムが導入されているのはそのせいらしい。
今だってまだ4月なのに、時間は18時をすぎているのに昼間のように明るい。
この時期の日の入りは19:30くらいだ。
日本だったら真夏だけども、ロンドンの真夏は21:00くらいが日の入りらしい。
それでも日本と違って湿気がないから、だいぶ助かる。
まだ全然明るい空を見上げる。今は雲が少なく雨も降らなさそうだ。スタジオまではなんとかもつだろう。
階段を下りて歩き出すと、珀英がオレの右隣に並んで歩く。
ふと・・・珀英を見上げる。
やけに嬉しそうににこにこ笑っている。
ただ一緒に歩いているだけなのに、何でこんな嬉しそうなんだ・・・?
そう思った時に、すぐにその理由に思い当たった。
今までこうして珀英と一緒に歩くことって、滅多になかった。
日本にいると周りの目があるから、デートもなかなかできないし、家に帰るのも別々だから。
そう思ったら、珀英が嬉しそうにしているのがなんかわかった。
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