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括り紮げる 19

緋音さんはエントランスの脇にある受付っぽい人に軽く会釈(えしゃく)をした。顔を覚えているのだろう、イギリス人の明るい茶髪の男性も笑顔で返してきた。 オレを見て不審気(ふしんげ)な顔をしたので、緋音さんが慌(あわ)てて、自分の友達だと説明してくれた。 中に入ることを許されたオレは、軽く会釈をしてお礼を言う。 緋音さんはそのままエントランスを真っ直ぐ奥へ進み、一番奥の扉を開ける。木製の扉に少しびっくりする。 防音とかどうなってるんだろう? 中に入ると広い会議室みたいになっており、大きな机と椅子が置かれている。数人のスタッフらしき人がいて、緋音さんは挨拶と同時にオレを紹介してくれた。 恋人だなんて言えない緋音さんは、日本からきた後輩でバンドやってて歌を歌っているから勉強がてら連れてきたって、説明をした。 スタッフの人達はみんな朗(ほが)らかに自己紹介しつつ、握手をして挨拶してくれた。 オレは握手に応じながら、日本人の癖で会釈しながら、簡単な自己紹介をしつつスタジオ内を見回した。 オレがよく知っている日本のスタジオとは違った。 まず、広い。 20畳以上はありそうな部屋と高い天井に驚く。 日本ではここまでの広さと高さはない。日本の土地自体が狭いから仕方ないか。 さすがイギリスだなと、妙に感心する。 会議室っぽい隣にオレもよく見知っているコントロールルームがあった。 コントロールルームには録音機材やスピーカーなんかが所狭(ところせま)しと並べられていて、そこに通じる扉は防音用になっていた。 中にはここより更に色々な人がいて、何かを話し合っていた。 オレも音楽業界にいるので一方的に顔を知っている、今回のプロジェクトのメンバーの人もいて、おそらくプロデューサーと話しをしている感じだった。 そしてコントロールルームの更に向こうにブースと呼ばれる、録音するための部屋があった。 全てがガラス張りで内部が見えるようになっている。 ブースの中では今回のプロジェクトで、ヴォーカルを務(つと)めているアメリカ人の女性が歌録りをしていた。 彼女も世界的にトップセールスを誇るシンガーだ。 本当に・・・実際に間近にすると錚々(そうそう)たるメンバーが集結しているのが現実味を帯びて、ファンとしてちょっと興奮してくる。 オレがそうやってワクワクしながら中を見回していると、緋音さんは空いている椅子にさっさと座って、ギターをケースから取り出している。 初めて見るロンドンでのレコーディング風景だったから、もっとじっくり見たい気持ちもあるけれど、オレにとっては緋音さんが一番だから。 オレは急いで側に行き、斜め後ろに立ってケースとカバンを受け取る。 指慣らしのためにギターを弾き始めた緋音さんを眺めたまま、緋音さんのギターの音を聞いていた。 綺麗な旋律と、艶(つや)っぽくて嫋(たお)やかな、音。 耳からだけじゃなく、体全部から入ってくる、緋音さんの音。 骨の髄まで浸食して犯される感じ。 昔から変わらない、大好きな感覚。

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