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括り紮げる 20
オレがそうして立って緋音さんを見つめながら聞き惚(ほ)れていたら、スタッフさんが気をきかせて椅子を持ってきてくれた。
オレはお礼を言いながら、ギターを弾く緋音さんの斜(なな)め前に椅子を置いて座り、緋音さんを見つめ続けていた。
緋音さんはオレに見つめられ続けるのに慣れているので、全く気にする様子もなく、綺麗な旋律を奏(かな)で続ける。
ふと、綺麗に整えられた柳眉(りゅうび)が寄った。
緋音さんが顔をしかめながらギターを弾くのをやめ、弦を押さえる左手を少し握ったり開いたりを繰り返した。
「緋音さん、見せて」
「え・・・ああ・・・」
緋音さんは素直に左手をオレに差し出した。
さっきもそうだけど、命に等しいくらい大事な手を、オレに差し出してくれる。
それだけで嬉しいし興奮する。
オレはその世界で一番大事な手を下から受け取り、そっと握って、優しく手の甲から指先まで丁寧にマッサージをする。
「弾きすぎですね。家でもずっと弾いてたし」
「しょうがないだろ」
「しょうがないけど、ちゃんとケアしないと、腱鞘炎(けんしょうえん)になりますよ」
「・・・・お前がいなかったんだから、しょうがないだろ」
緋音さんが拗(す)ねたようにそっぽを向いた。
たしかに、日本にいる時は、緋音さんの健康管理や体のマッサージなんかはオレがしている。
離れ離れだったこの期間は出来ないから、仕方ないけど。
オレがいなかったからしょうがないって拗ねる緋音さんが、本当に可愛いな〜〜〜あ〜〜〜ああああ〜〜もうぉぉぉ〜〜!
ちょっと叱るとこれだから、本当に堪(たま)んない。
真っ白なきめの細かい肌をした手。
細くて形の良い、白魚のような華奢(きゃしゃ)な指。
オレが少しでも力を入れたら、簡単に折れそうな指。
貝殻のような形の良い輝く爪。
思わず指先から口吻けて、手の平も甲も、指の間も全部を舐めて、爪も心も口に含みたくなる。
オレは色々な欲望を我慢して、丁寧に手の平と指をマッサージしながら、微笑(わら)って激情を誤魔化(ごまか)した。
「あとで自分でできるマッサージ教えますから、やって下さいね」
「いらない」
「ダメですよ、ちゃんとしないと・・・」
「お前しかヤダ」
「あ・・・かねさん・・・っっっ・・・!」
一瞬、呼吸するのを忘れた。
だから・・・そういう可愛いこと言っちゃあダメだって・・・!
色々元気になりそうなのを、何とか理性で押さえ込む。
ここが日本じゃなくて良かった・・・日本語で話してたから、周りにいるスタッフさんとかに聞かれていても、意味はわからなかっただろう。
もちろん、緋音さんもそれがわかっていて言ったんだろうけど。
緋音さんは愉悦(たの)しそうに、揶揄(からか)うように微笑みながら、オレがマッサージしているのを、ずっと見つめていた。
こうしてオレを弄(もてあそ)ぶのが趣味なんだから、本当に性質(たち)が悪い。
だが嫌いじゃない。
むしろ大好物。
緋音さんと付き合いだしてから、だいぶ偏(かたよ)った性癖になってきた・・。
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