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括り紮げる 23

緋音さんはいつもよりも、情感たっぷりな動きでギターを弾いている。 真っ白な細い手が艶(なまめ)かしく動いて、腰がオレのを咥(くわ)えこんでる時みたいに揺れて、真っ白な頬がうっすらと桜色に染まって、大きな瞳は伏せがちで、真っ赤な口唇からは熱い吐息が漏れているのがわかる。 こんなの見せられたら、めちゃくちゃに犯したくなる・・・。 ああ・・・本当に、緋音さんは可愛いし、色っぽいし、艶(あで)やかで奇麗でエロくて・・・最高に好き。 ベットの中で、オレに突っ込まれてぐっちゃぐっちゃに犯されている時みたいに、濡れた薄茶の瞳がオレを誘ってくるし、深紅の口唇が何か言いたげに震えて吐息を吐き出す。 さっきマッサージして解(ほぐ)して温めたおかげか、白い細い指がギターの弦の上を滑らかに動いて、見ているだけでイキそうなくらい、いやらしい。 ギターを弾いている緋音さんが好き。 オレに抱かれている緋音さんが好き。 ステージに立っている緋音さんが好き。 オレの隣で眠っている緋音さんが好き。 オレに笑いかけてくれる、緋音さんが好き。 オレを誘う緋音さんが、好き。 ギターを弾いている、緋音さんが好き・・・。 生きて、動いて、呼吸している、緋音さんが好き。 ちょっと油断すると、緋音さんはすぐにオレなんかの手の届かないところに行っちゃうから。 傍にいるのに取り残されたような淋しさが、ポツンと胸に残る。 今だってこうしてプロジェクトに呼ばれて、ロンドンでレコーディングをしているのも、そういうこと。 オレなんかじゃ絶対にこんなプロジェクトには呼ばれない。 この話しが緋音さんの長年の努力の賜物(たまもの)だって、もちろんわかっている。 これだけのギターが弾けて、これだけ奇麗なんだから、こうなるのが当然だとも思う。 いちファンとしてのオレは、もっとみんなに緋音さんを知って欲しいと思う。 もっとみんなが緋音さんを好きになって欲しいと思う。 充分世界的に知られているアーティストなのに、まだ足りなくて、もっともっと世界中の人に知って欲しい。 でも恋人としてのオレは、誰にも緋音さんを見せたくないと思っている。 閉じ込めて誰にも会わせず、がんじがらめにして、監視して、オレのことだけ見ていて欲しいと思っている。 そんなことしないけど。 そんなことできるわけない。 こうしてギターを弾いて、好きな音楽を奏でている緋音さんが、好きだから。 隣にいるのに。 誰よりも傍にいるけれども、緋音さんとの距離は縮まらない。 触れられるほど近くにいるのに、手が届かないほど遠く、誰よりも遠い所にいる人。 ガラス一枚隔(へだ)てた向こうにいる緋音さんを見ながら、その嫋(たお)やかな姿を見つめながら、見えるのに手に入らない壁を。 焦燥(しょうそう)を感じていた。 * レコーディングは果てしなく続き、珀英が見守る中、緋音はあれから追加で2曲録り直しした。 そんなに色気の欲しい曲があるのかと珀英は驚きつつ、クロエが悪ノリする感じで緋音に録り直しさせているのを、ずっとずっと見つめていた。 朝方4時くらいに、全ての録り直しを終えて、緋音のエネルギーが切れたので、珀英が無理に緋音を引っ張って帰宅した。 まだ編集作業などがあるから緋音は嫌がったが、珀英の目から見たら完全にオーバーワークだった。 押しているスケジュールとかを考えたら、本当は続けさせるべきなのだろうが、緋音の体のことを考えたら、どうしても珀英が容認できなかった。 少なくとも、自分がいる時くらいは無茶はさせたくない。 そう思っている珀英は、嫌がる緋音を引きずって、でもメンバーの人たちは温かく見送ってくれている中、スタジオを後にした。 超〜〜〜不機嫌顔な緋音を宥(なだ)めすかして、何とか二人は緋音の暮らすアパートメントまで辿(たど)り着いていた。 何とか歩けてはいるけれども、時折(ときおり)ふらつく緋音の腰を抱いて、珀英はゆっくりと歩く。

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