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括り紮げる 28
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ベットサイドの間接照明を点けて、着ていたTシャツを脱ぎ捨てて、いつものように上半身裸で下はパジャマを着て、珀英はベットに入ると、むくれて背中を向けて横向きに寝ている緋音を、片腕で上からそっと抱きしめる。
緋音がちょっとビクっとなって体を硬くした。
もう片方の腕を頭の上にそっと置くと、緋音が少し頭を持ち上げた。
珀英は緋音の首のところの腕を入れて、そのままぎゅっと抱きしめる。
緋音の甘い体臭と、汗の匂いが微(かす)かに混じった香りが、鼻腔(びくう)を刺激して、珀英は思わず生唾(なまつば)を飲み込む。
いつもだったらこのまま首筋や耳にキスをして、セックスに持ち込むけれど、珀英はそうしなかった。
「・・・お休みなさい」
耳元で小さく囁いて、ぎゅっと抱きしめたまま何もしないでいた。
緋音が体を硬直させたまま、無言でいるのをしばらく楽しむ。
不意に緋音が体を少し揺らすように動かす。
珀英はがっつり目を開いて緋音を凝視(ぎょうし)しながら、緋音の動きを見守っていた。
緋音は何度か体を左右に揺すってから、珀英の腕から逃げるようにベットの端の方に移動する。
思わず追いかけそうになった時、緋音がいきなり体を反転させて、珀英と向き合う体勢になる。
思いっきり目が合う。
少し怒っている緋音の瞳はきらきら輝いていて、どんな宝石も敵(かな)わないほど綺麗だった。
思わず抉(えぐ)って保管したくなるほど。
綺麗だった。
珀英が思わず息を飲んであまりの美しさに感動していると、緋音はゆっくり顔を近づけて、おずおずと珀英の口唇に。
口吻ける。
触れるだけの口吻けだったけど、珀英は媚薬を嗅(か)がされたような、眩暈(めまい)を覚えた。
そのまま緋音はにじにじと体を起こして、珀英の口唇を割って舌を搦(から)めながら、珀英の上に乗る格好になる。
積極的な緋音が珍しくて、珀英はしばらくは緋音のしたいようにさせてみようと、大人しく緋音の下になる。
でもちょっと意地悪したくて、珀英は上に乗った緋音のTシャツの下に手を這(は)わせて、肩甲骨(けんこうこつ)をそっと撫ぜて、背骨に沿って指先を滑らせる。
「・・・ふぁ・・んっ・・」
口唇の端から、緋音が声を漏らす。
快感に酔った嬌声(きょうせい)。
気持ちいい時に漏らす緋音のその声は、誰にも聞かせたくないけど、全人類に聞かせたいくらいの、いやらしい甘い声。
珀英は指を腰まで滑らせて、尾骨(びこつ)を強く押してみる。緋音の腰から背中にかけて強い快感が走り抜けた。
「ああっ・・・んんあっっん・・・!!」
ビクッと体を震わせて、緋音の口唇が舌が離れて、そのまま背中が反(そ)る形で顔が上に持ち上がる。
制御できない気持ちよさが脳味噌を揺さぶって、少しずつ、でも確実に緋音の理性をこそげ落としていく。
下から見る緋音の顎(あご)のラインも、首の細さも、鎖骨の滑らかさも、嫋や(たお)かで色っぽくて、珀英は噛みつきたい衝動を抑えていた。
珀英はそのまましつこく尾骨を刺激して、緋音の口唇から漏れる喘(あえ)ぎ声を堪能(たんのう)していた。
「あんっふあんっ・・・もう・・やめっ・・・!」
「なんで?気持ちいいんでしょ?」
「あっやあっ・・・この・・・っっ!」
緋音が顔を下に向けて、珀英をきつく睨(にら)みつける。
さっきと同じキラキラ輝いた瞳で、睨みつけてもらえて、珀英の背筋がゾクゾクと震える。
罵(ののし)られたいとも思うし、逆に虐(しいた)げて泣かせたいとも思うし、命令されたいし征服されたいとも思うし、めちゃくちゃに犯してその自尊心を砕きたいとも思う。
真逆の気持ちが珀英の中で溢れかえって、どうしようもなく緋音が欲しくなる。
珀英は、思わず溢れた唾液を飲み込んだ。
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