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括り紮げる 32
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「お前、飛行機何時なんだ?」
翌日起きてから、相変わらず片付けやら炊事(すいじ)やらに奔走(ほんそう)している珀英に、オレは話しかけた。
オレは珀英の作った朝食を食べ終わって、珀英の淹(い)れてくれたコーヒーをゆっくり飲む。
朝食といってももう昼をすぎた時間だが、珀英の作ったサンドウィッチを食べた。卵とハム、照り焼きチキンとレタス、ツナマヨが挟まれたサンドウィッチを完食していた。
昨夜は珀英に気絶させられるほど激しくされたので、お腹が空いていたのでいつもより多く食べてしまった。
そりゃあ、挑発したオレも悪いんだろうけど・・・でもあそこまで激しくすることないと思う・・・。
何となく昨夜のことを思い出してしまい、ちょっと恥ずかしくなっていると、珀英は冷蔵庫にせっせとタッパーを詰め、冷凍庫に袋を詰め終わってから、満足したようにオレの座っている目の前の椅子に座る。
「夜の10時くらいの飛行機なんで、9時までに空港にいれば大丈夫です」
珀英は置いてあった自分のコーヒーを飲みながら答えた。
今夜の飛行機に乗って珀英は日本に帰ってしまう。
しかもこの後は珀英は自分のバンドの全国ツアーがあるので、もうロンドンには来れないらしい。
だから、次に会えるのはオレの仕事が終わって日本に帰った時。
白いシャツと、黒いスラックスを履いたモデル並みの長身で、大きすぎず小さすぎない目と、高く通った鼻筋、オレより少し厚めの口唇の、珀英の整った顔を見ながら、オレはコーヒーを一口飲む。
「ふぅん・・・でもオレ6時くらいに出るけど?」
「ああ、一緒に出ますよ。お土産とか買いたいから、大丈夫です」
「あっそ・・・」
ロンドンからヒースロー空港までは近い。電車に乗ればすぐだ。
オレと一緒に出たら7時前には空港についてしまう。
土産を買うのにそんなに時間はかからないけど、合鍵を持っていないから、珀英は気を使ってくれている。
別に・・・言ってくれれば家を出る時間遅らせてもいいのに・・・。
思っていても口に出せず、オレはコーヒーを飲み干してしまう。
珀英はそんなことをオレが考えているとも思わず、
「冷蔵庫と冷凍庫にご飯入れて置きましたから。食べ方は全部メモ貼っておいたんで。緋音さんでも作れるようにしておいたんで、ちゃんと食べて下さいよ」
いつもの小姑(こじゅうと)みたいに、くどくどと言ってくる。
「あ〜はいはい」
適当に返事すると、珀英は眉根を寄せた軽く溜息をつく。
「ちゃんと食べてちゃんと寝て下さい。オレが側にいれればいいんですが・・・心配なんですよ」
「っっっ・・・だからわかってるって!ちゃんとするよ」
「約束ですよ」
「はいはい」
オレがそう返事をすると珀英は満足そうに微笑んで。
それでも淋しそうに瞳を伏せた。
犬が淋しさを我慢しているその様子に、思わず抱きしめたくなる。
一緒に日本に帰りたくなる。
でもしょうがないだろ。
オレだって淋しいって思ってるし・・・仕事なんだからしょうがない。
その後は、夕方になるまでオレはいつも通りギターの練習をしていて、珀英は家事をしながら、たまに休憩しながらオレのギターを聴いていた。
穏やかな、時間。
日本にいる時は、ここまで長い時間一緒にいることができなかったから、とても新鮮で居心地が悪いような良いような、気恥ずかしい感じがする。
こうして珀英が側にいる気配や、音を感じながら、ギターの練習したり休憩してコーヒー飲んだり、他愛(たあい)のない会話をしたり、他人からしたら何ともない退屈な風景だろうけど、オレにとってはとても愛おしい時間だった。
もし・・・珀英と一緒に暮らしたらこんな感じなのかな・・・。
思わずそんなことを考えてしまい、一人で恥ずかしくなったりした。
別に一緒に暮らしたいとか、そんなんじゃないし。
ってか、こいつ毎日家にいるから一緒に暮らしてるようなもんだし。
そうこうしている内に時間が経ってしまい、珀英は荷造りを終えてしまい、オレが家を出る時間になってしまった。
仕方ないので重い腰を上げてオレも出かける支度(したく)をして、終始(しゅうし)笑顔の珀英と一緒に部屋を出る。
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