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括り紮げる 33
珀英がオレのことを気遣って笑顔でいることなんか、わかってる。
アパートメントの階段を下りて駅までの道を歩く。珀英が大きめのキャリーバッグを引きながら、オレの隣を歩いている。
ロンドンは本日もすっきりしない曇り空。
まだ太陽は沈んでいないものの、日が落ちてきたので気温が下がり始めている。
オレは珀英がいる側とは反対の肩にギターを担(かつ)いで、珀英側の手はあえて空けておいた。
そっと・・・珀英がその手を握る。
期待していた通り、珀英が手を繋いでくれた。
温かい、大きな手。骨張ってるけど、大きくて、手だけじゃなくて全部包(くる)んでくれるような、大きな。
暖かい。
こうして手を繋げるのも最後。
日本じゃできない。
これが最後だと珀英もわかっているのか、ぎゅっと、強く手を握ってくる。
本当はいつでも好きな時に手を繋いで歩けるようになりたい。
日本では、本当にそれが難しくて。
本当に難しくて。
オレが有名人とかそういうのじゃなくて、ただ単純に、同性が手を繋いで歩くことが困難な国。
オレも珀英もただの会社員の一般人だったとしても、手を繋いで歩くことすら難しいのが、日本という『國』。
悪いことをしているわけじゃないのにね・・・なんで堂々と『恋人』だと、『好き』だと言っちゃいけないのか・・・。
何かいろんな感情が溢れてきて。
思わず。
オレは初めて、その手を強く握り返した。
しっかりと強く握る。
珀英の全部を括(くく)りたいから。
珀英が少し戸惑ったような感じが伝わる。何度も手を開いて、強く握ってを繰り返す。
それが何だか可愛くて、泣きたくなるくらい愛おしくて、オレは珀英の手を強く握ったまま歩く。
本当は日本に帰って欲しくない。
側にいて欲しい。
言わない。
オレからは絶対に言わない。
だから、珀英に言って欲しい。
帰らないって、言って欲しい。
どんなに手を握っても、伝わらなくて。
やっぱり言葉にしないと伝わらなくて。
程なくして、空港まで直結で行けるターミナル駅に着いてしまう。
駅前の広場で、珀英はオレの顔を見つめて、いつもと変わらない優しい笑顔を浮かべる。
「じゃあ、行きますね」
そう言って珀英は、名残惜(なごりお)しそうに、そっと手を離す。
オレはどうしようもなくって、珀英の手を離した。
手の平から、手の甲から、珀英の温もりが離れていくのが、淋しい。
とても。
苦しいくらい。
淋しい。
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